−1年生編−

□第9話〈少女と世界の遊び〉
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「な、ないわ…」

苦し紛れにマリは言った。


「なんだって?」

「お菓子、持ってないわ」

ジェームズはマリの言葉を聞き取ると、大袈裟に笑った。


「ははははっ!
マリ、お菓子もってないのかい?」

「マリ、こういうことがあるから昨日飴をあげといただろ?そいつはどうしたんだ?」

シリウスの言葉に、マリは首を振った。

「ハロウィンのためにくれたんだって気づかなかったわ…。部屋に置いてきちゃった」


シリウスは はあ、と大きなため息をついた。

「何やってんだよ…、
じゃあそこのあんた、トリックオアトリート?」


シリウスはマリの隣にいるアミーに声をかけた。

しかしすぐさま、マリが叱責の声をあげた。

「シリウス!“あんた”なんて失礼よ!この子はアミー・シェーピアっていうんだからね!」

「分かった分かった!
悪いなシェーピア、トリックオアトリート?」


妹をなだめながら言うシリウスに、アミーはクスッと笑った。

そしてポケットからクッキーを取り出す。

「はい。マリのお兄さん、それとお友達にも」

アミーはクッキーをシリウスとジェームズに渡した。


「なんだ持ってたのか」

「当然よ。今日はハロウィンだもの」

「アミー!持ってたんなら寝室で私に教えてくれればよかったのに!」


マリが涙目で言うと、他の3人が声をあげて笑った。


「ごめんねマリ!私てっきり、貴女が持ってるものだと思ってて」

「自業自得だな、マリ」

「さて、どんな悪戯にしようか…」


ジェームズが顎に手をあてて考え込んだ。

すると、すぐに「あっ!」と顔を輝かせた。

「そうだ、マリにも仮装させよう!」

いい考えだろ?と笑顔のジェームズ。


マリは青の瞳を見開いた。

「か、仮装!?」


ジェームズは頷いた。

「今日は授業ないし、マリに似合う衣装を探してさ、」

「ま、まぁその位なら」


よかった、変なのじゃなくて、とマリは内心安堵した。

“1日中豚の鳴き声しか喋れなくなる呪文”とかよりかは全然ましだ。(この間ジェームズが、その呪文について話しているのを聞いてしまった)


「でも衣装なんてどこに――…」

「待って!私、いろいろ持ってるかもしれないわ。
お母さんがハロウィン用にトランクにつめたの!」

アミーの発言に、ジェームズは嬉しそうに言った。


「よし!じゃあシェーピア、その衣装達を談話室まで持ってこれるかい?」

「もちろんよ」

アミーは頷くと、マリの手を引いて 今入ってきたばかりの出入口に引き返した。

その後ろ姿を見守る二人の耳に、「朝食まだなのに〜…」と泣きそうなマリの声が聞こえた。



「…いやぁ、シリウス!
君の妹はなんというか、本当にかわいいな!からかいがいがあるよ」

親友の肩を叩きながら言うジェームズに、シリウスは神妙な面持ちで言った。


「…ジェームズ、」

「なんだい?相棒」


シリウスはこそっとジェームズに耳打ちした。


「…ぷ、」

「…おい」

「だっはははは!もちろんだともシリウス君!
最重要事項として頭に入れとくよ!」

「…頼むぞ」


アミーとマリの後を追うため、二人も大広間の外へ出る。

大広間と比べ、廊下はやや静かだった。


「シリウス、君は本当にマリが大切なんだな」

「………まぁな」


「くくっ、“露出度少なめの服で頼む”なんて、普通兄貴が頼むか?」


「…うるせっ」



仕方ねえだろうが!

最近、あいつを狙う男が多いんだよ!
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