−1年生編−
□第3話〈遅すぎたレクイエム〉
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たとえば、
闇の中にいたとして。
たとえば、
鎖でがんじがらめにされていて。
それでも、
君がいてくれたなら、
笑いかけてくれたなら、
僕は、きっと―――…
第3話
〈遅すぎたレクイエム〉
「イッチ年生!イッチ年生はこっちゃ来い!」
もじゃもじゃな髪と髭の森番、ハグリッドに誘導され、マリは大きな黒い湖のほとりに出た。
隣にはレギュラスがいる。
ほとりからは、写真でしか見たことのない壮大な城、ホグワーツが見えた。
「…すごい!こんなに、実物がこんなに綺麗だったなんて!」
マリは瞳を輝かせて歓声をあげた。
マリだけじゃなく、ほとんどの新入生が感激の声をあげていた。
ただひとり、レギュラスを除いて。
レギュラスは城を見てはいるものの、その表情からは感動や感激といった感情が読み取れなかった。
「レギュ?…まだ怒ってるの?」
マリは視線をレギュラスに戻し、片割れの顔を覗きこみながら聞いた。
レギュラスの財布争奪戦は、レギュラスのデコピンがマリの額にヒットしたことで、終わりを迎えたと思われていた。
レギュラスの様子からすると、そうではなかったのか。
しかしレギュラスはため息をつき、さぞめんどくさそうに言った。
「…何を言うんですか。僕はマリと違って終わったことをいちいち気にしませんよ」
報復はできましたし、とレギュラスはマリの額をちらりと見る。
前髪の間から覗く額の中心には、赤々としたたんこぶが見てとれた。
「…なっ!失礼ね、私だってそんなにねちっこい女じゃないわよ!」
「それは失礼しました」
ちゃんと謝ってる風じゃないわ!と憤慨するマリは、はたと動きを止め、
眉根を寄せた。
じゃあ、レギュラスは一体何をそんなに怒っているのかしら。
「別に怒ってなどいませんよ。考え事です」
「考え事?」
レギュラスは ええ、と頷く。
マリが聞く前に、レギュラスは口を動かした。
「組分けに、ついて」
マリはきょとんと片割れを見る。
そしてパアッと笑顔になった。
「レギュ、珍しく心配してるのね!でも大丈夫、きっとレギュはスリザリンに…」
「僕じゃありません」
レギュラスは続けた。
「マリ、貴女です。貴女の組分けを心配してるんですよ」
「…私?」
風が、2人のローブと髪を揺らした。
「僕は、マリが、少しだけ、心配です。スリザリンになるには余りにも、」
レギュラスは言葉を切り、そして、告げた。
「脳みそが足りない」
「…はあ!?」
「ええ本当に、こんなのが僕の双子の妹だなんて
人に知られるのが心配になるくらいに、貴女は脳みそが足りてません」
「ちょっと、ちょっと」
「ハッフルパフになんか入れられたら…僕、自殺しますから」
一生の恥です。
レギュラスは険しい顔で
つらつらと そう語った。
一方のマリは、ぷくっと頬を膨らませた。
…何を言い出すのかと思えば。
ハグリッドに促され、ボートに乗りこみながらレギュラスに言った。
「ほんとレギュって、私にすごく失礼よね!だけど、私たちは双子。レギュがスリザリンなら私だってスリザリンだわ」
そういうものでしょう?
にっこり笑うマリに、レギュラスは頭を抱える。
ああ、やっぱり分かってない。
ボートが満員になり、動き出すとマリはさらに続けた。
「それとね、レギュラス」
パチッ
「…痛」
マリは突然、レギュラスにデコピンをかましたのだ。
「私は妹じゃなくて姉、ですからね!」
レギュラスは妹(「だから姉だって言ってるでしょう!?」)に弾かれた額をさすった。
そして密かに思った。
「(やっぱり、根に持ってるんじゃないか。…デコピン)」