−1年生編−

□第5話〈闇は優しさに消えた〉
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仮面の下の百面相


彼女に愛されていてもなお、


死にたい奴はいるか――…


     第5話
 〈闇は優しさに消えた〉


シリウスはため息をついた。

時刻はそろそろ0時になる。

普段なら寝室に向かっているはずの時間に、今もなお談話室にとどまっている理由は、隣に眠る妹にあった。

マリの頬には、幾数もの筋が光っていた。

閉じられた瞳の目尻にも、乾ききっていない滴が見てとれる。

シリウスは、先ほどのマリの話を思いだし、眉間にしわを寄せた。


まさか、と思った。

いや、やはりとも言うべきなのだろうか。

あのレギュラスが、マリに向かってあんな酷い言葉を言うなんて。

マリがグリフィンドールに選ばれたことで、何らかのいざこざが起こることは、予想済みだった。

だがそれは、あくまでも両親についてで、レギュラスについてではない。

レギュラスに至っては、自らとマリを別々の寮にした組分け帽子を切り刻むとか、そういう類いのものを心配していたのであって、マリ本人との亀裂はないものと思っていたのだ。

彼は、双子の片割れを本当に大切に思っていたから。


普段ぶっきらぼうで感情を表さないものの、レギュラスのマリに対する温かな想いはよく分かる。

無論、彼女を傷つけるものへの、異常なまでの、憎悪も。


「ん……」

マリが身じろぎをした。

その瞳から、新しく一粒の涙がこぼれた。


「マリ……」

シリウスは、自分の肩によりかかっている彼女の頭を優しくなでる。


早く、なんとかしてやらないと。

きっとレギュラスには、何か理由があるはずだ。

大切な彼女を傷つけてしまうほど、心を乱すきっかけが。

シリウスはちらりと、妹を見た。


――それにしても、


「お兄ちゃん、か」

シリウスは泣き叫ぶマリの声を思い出し、苦笑した。

マリ自身、おそらく気づいていないだろうが、マリは昔の呼び名でシリウスを呼んでいたのだ。

シリウスがホグワーツに入学する前、つまりまだ兄弟3人の仲が良かった頃の、呼び名を。


――あの頃は、まだレギュラスも「兄さん」と呼んで慕ってくれていたっけ。


2人に初めて「シリウス」と呼ばれた時は、少なからず距離を感じたことを覚えている。

もっとも、今じゃレギュラスは名前すら呼んではくれないが。


シリウスは弟妹を想いながら、静かに瞳を閉じた。
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