−1年生編−

□第6話〈愛した彼女はただひとり〉
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気がついた時には

彼女はもういなかった


これが最初の、〔お別れ〕だった


     第6話
〈愛した彼女はただひとり〉


――ああ、やってしまった。


お世辞にも爽やかとは言えない面持ちで、レギュラス・ブラックは朝食の席についた。


目の下にはうっすらと隈ができている。

その隈と憔悴しきった顔が、昨夜 彼が安らかな眠りにつけていなかったことを、何よりも証明していた。

レギュラスは昨夜、ある事を延々と悩みこんでいた。


――昨日、自分の片割れを、深く傷つけてしまったのだ。

他でもない、レギュラス自身の言葉で。



そんな、つもりはなかった。

たとえ寮が違えど縁を切る気など毛頭ないし、あの兄に彼女を任せっぱなしにするのも癪だった。


夕食のあと、彼女がすりよってきた時には自分でも驚くくらい嬉しかった。
固く一文字に結ばれた口元が緩んでしまったほどだ。

だから、マリを安心させてやろう、と。

「大丈夫」
「嫌いになんか、ならないよ」と、そう伝えようと思っていた、なのに。


…それなのに、あいつが。


ジェームズ・ポッターが、現れたりするから。

ジェームズの登場は、レギュラスの心に大きな揺さぶりをかけた。

兄を、奪った男。


優しくて大きかった頃の兄を、奪った人物。

それだけじゃない、
あの人を奪って、その上僕達3兄弟を、バラバラにした人物。

そのせいで、マリは深く傷ついてしまった。


奴は、マリを傷つけた。
マリを。


『マリ?こんなとこで何してるんだい?』


マリがどこで何をしようが、お前には関係ないだろうが。

それに、誰の許可をとってファーストネームで呼んでいるんだ、気持ち悪い。


『ありがとうジェームズ』


マリ、いつの間にあいつに笑顔を向けるようになったんだ?

朝は、嫌そうな顔をしていたくせに。


『ふざけた事を言わないでください』


気がついたら、こう言っていた。


マリの表情が固まったのを見て、頭の中で声がした。
〈もうやめろ〉
〈これ以上言ったら、マリが――…!〉


黒い感情に呑み込まれたレギュラスは、一瞬自分が何をしてしまったか分からなかった。

マリが走り去って、彼女の涙の痕跡を見て、悟る。


――ああ、僕はなんてことを。


彼女は、自分を怒っているのだろうか。

否、彼女のことだ。
一晩中悲しみに暮れ、泣いていたに違いない。

僕とあの兄がケンカをしただけで、泣いてしまうような彼女だから。


僕は、どうすれば。


その時背後で声がした。


「ご機嫌麗しゅう、レギュラス・ブラック」
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