−1年生編−

□第7話〈ラスト・キスに君の名を〉
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ねえ、お願い


愛して―――…


     第7話
〈ラスト・キスに君の名を〉


入学してからの1週間は、新入生にとってこれ以上ないほどの慌ただしい1週間だった。

初めて受ける授業、個性豊かすぎる教員達、目まぐるしく変わる景色、ついでにイタズラがすぎるピーブズ。

マリの場合は特に、ブラック邸からほとんど外へ出たことがなかった為に そのカルチャーショックは凄まじいものだった。


「お〜やおや!由緒正しきブラックの箱入り娘がいるぞー!
マッチを知らない、なんにも知らない、脳みそからっぽお馬鹿なマリちゃ〜ん!」

マリが異常なほどに日常の物について無知なのは、ゴーストにまで知れ渡っていた。

特にピーブズは、マリを見かける度に「世間知らずな箱入り娘がいるぞー!」と喚き散らしていた。


「…うるさいわね!どっか行ってよ、ピーブズ」

「や〜だよ〜だ!シリウスちゃんとレギュラスちゃんにも報告しなくちゃあ、
ブラックの小娘はなーんにも知らな〜い!」

プカプカとピーブズがついてくるので、マリは急ぎ足でグリフィンドール塔に向かった。



「勿忘草!」

扉の前で合言葉を叫ぶと、太った婦人が驚いたようにこちらを見た。

「やあね、大声出さなくたって聞こえるわよ―…、
そんなに急いで、どうしたの?」

「ちょっとね。お願いレディ、早く開けて…」

「はいはい」


扉がパッと開き、マリは談話室へと入っていった。

すると、談話室はいつも以上にこみ合っていた。


夕食後のこの時間は 大抵人が多いが、今日のざわめきはいつもと違う気がする。


どうしたんだろう?


マリが周りをよく見ると、掲示板の前に人だかりができていることに 気がついた。


「…うーん」

背の低いマリは、掲示板をよく見ることができなかった。

人だかりの一番後ろでぴょんぴょん跳ねてみても、それは変わらなかった。


仕方なしに、ソファに座って読書をしている女子生徒に声をかけた。

おそらく上級生だろう。


「あの、読書中にごめんなさい。この人たち、何をそんなに騒いでるの?」


女子生徒が本から顔を上げた。

「あなた一年生?」

女子生徒に聞かれ、マリは頷いた。


そう、と女子生徒も納得する。

「掲示板に、一年生宛のお知らせが貼ってあったみたいなの」


女子生徒は立ち上がり、マリの背丈を確かめた。

「あなたは小さいから無理そうね」

ちょっと待ってて、というと 女子生徒は自身の赤毛をなびかせて、人だかりにずんずんと入り込んでいった。

マリの小柄さでは、人だかりに打ち勝てるとは思わなかったらしい。


しばらくすると、女子生徒が人だかりをかき分けて出てきた。

にっこりとマリに笑いかけた。


「お知らせの内容を見てきたわ」

彼女は背後の掲示板を親指で指し、言った。



「一年生は明日から、飛行訓練が始まるみたいね」
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