−1年生編−
□第8話〈気まぐれスピカの願い事〉
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灰色か
白か
黒だった。
僕の世界に色を灯したのは――…
第8話
〈気まぐれスピカの願い事〉
まさか、そこまで。
たかが友達一人のために、君は命を犠牲にするのか。
マリが湖に飛び込んで行った時、レギュラスは目を疑った。
「マリ!」
無我夢中で叫んだ。
死ぬ気か?
あの広い湖に潜り小さな杖を見つけるなんて、無謀にも程がある。
連れ戻さないと、
僕が守らなければならない小さな彼女を。
レギュラスはマリを追いかけようとした。
その時、ガッと肩を掴まれた。
「どこに行くつもりなの、ミスターブラック」
肩を掴んだのは、スリザリンの女子生徒だった。
「離せ…!」
時は一刻を争う。
いつもの冷静な口調のレギュラスではないことに、
女子生徒は少し目を見開いたが、刺々しく言った。
「今飛び込んだのは、ブラック家を裏切ったあなたの双子ね。そんな子を助けるとでも?」
ブラック家後継ぎのあなたが。
女子生徒はさらに強い力でレギュラスの肩を掴んだ。
「そんなことをしたら、きっと貴方のお母様とお父様はお悲しみになるでしょう。ここは黙って成り行きを―…」
「黙れ」
レギュラスは、女子生徒の腕を掴み、自分の肩から外した。
そして女子生徒を、睨みつける。
「お前に、マリの何が分かる」
「…!」
レギュラスはそう言い放つと、湖に向かって走り出した。
残された女子生徒は、呆気にとられてその後ろ姿を見つめていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
湖の中は、予想以上に暗く濁っていて、レギュラスの視界を邪魔した。
こんな中で、あの子は杖を探しているのか?
レギュラスはひたすら潜って片割れを探した。
くそ…!
もしも、考えたくはないがもしも、マリが手遅れなんてことになったら。
レギュラスはドリックやハイド、先ほどの女子生徒、ついでにメイリンを想像した。
あいつら、殺してやる。
マリを苦しめるきっかけを作った奴も、自分の邪魔をした奴も。
みんな、みんなだ。
その時だった。
「!」
10メートルほど先に、人がうごめくのが見えた。
マリだ。
足元を見て、焦ったように暴れている。
レギュラスはマリの方に向かって全速力で泳いだ。
しかしマリは、レギュラスの姿に気がつくことなく気を失ってしまった。
酸欠だ。
まずい、まずい!
ようやくマリのもとにたどり着くと、レギュラスはマリの足元に気がついた。
大量の、髪の毛が絡みついている。
そうか、これが原因で動けなかったのか。
気を失っているマリの体を引っ張っても、髪の毛はほどけなかった。
早くしないと!
レギュラスは自身の息も苦しくなるのを感じながら、杖を取り出した。
水中で効くか分からないが、一か八かで髪の毛に杖を向ける。
「(ディフィンド、裂けよ!)」
髪の毛は一瞬で散り散りになり、マリの足首から離れた。
再び新しい髪の毛がマリとレギュラスに絡みつこうと伸びてきたが、
その前にレギュラスはマリを抱き抱えて岸に向かって泳いだ。
太陽の光が、だんだんと近づいてくる。
レギュラスは、マリの体をさらに強く抱きしめた。