−1年生編−
□第9話〈少女と世界の遊び〉
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なくしたのは、
明日への希望と少しの勇気
たった、それだけ。
第9話
〈少女と世界の遊び〉
「うわあっみてみて!
マリ、すごいわよ!」
少し肌寒くなってきた日の朝、大広間に入るとアミーが歓声をあげた。
「どうしたの?」
「ほらっ」
アミーの視線を追うと、マリは瞳を輝かせた。
「うわぁ…っ」
大広間は、ジャック・オ・ランタンと呼ばれるカボチャの飾り物が至るところに置かれ、キラキラとした光が宙を舞っていた。
今日は10月31日。
ハロウィンだ。
「さすがホグワーツね!」
「えぇ、本当に…」
その時だ。
「見つけたよ、マリ!」
「うぇっ!?」
突然耳元で大声が聞こえ、肩を掴まれた。
振り向くとそこには、
「ジェームズ!シリウス!」
にこやかな表情の眼鏡と、その後ろに控える兄の姿があった。
「びっくりした…、2人ともどうしたの?その格好」
「今日が何の日か分かるだろう?仮装だよ、仮装!」
ジェームズは、頭に乗った大きなシルクハットをかぶり直した。
なんだかひと昔前の王子のような、華やかで気品があるスーツに身を包んでいる。
「あぁ、そういうことね!ジェームズは…、何、上流貴族の仮装?」
「チッチッ…分かってないなぁ、マリ。
僕は帽子屋の仮装をしてるんだよ」
「帽子屋?」
ジェームズはパッと帽子をとった。
中から鳩が飛び出し、天井へと舞い上がった。
「マッドハッターだよ!
不思議の国のアリスに出てくる帽子屋さ!」
マリはジェームズの姿を上から下まで眺めた。
「マッドハッターねぇ、少し聞いたことあるけど…」
「本当はドラキュラにしようと思ったんだ。
だけどシリウスにとられちゃって」
「悪かったな」
不機嫌そうに言うシリウスを、マリは見た。
黒くて大きいマントを羽織り、口には大きな八重歯が覗いている。
なるほど、とマリは納得した。
兄と言えど、やはりシリウスは綺麗な顔立ちをしていると思う。
いつもと少し違う雰囲気に、道行く誰もが彼らを振り返っていた。
「2人とも、よく似合ってるわ。それじゃあ良いハロウィンを」
「「待てマリ」」
二人の声が、ハモった。
マリは内心舌打ちしたい気持ちになった。
・・
それを言われる前に、立ち去ろうと思ってたのに!
だって今は――…
「「トリックオアトリート?」」
お菓子なんて、持ってないのよ!
マリは 寝室に飴を置いてきてしまった過去の自分を、呪った。