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□彼と彼女のエンディング
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『マリ!これ、マリにあげる』
『なぁに?これ』
『指輪だよ!僕とマリがずっと一緒にいられるように、おまじないをかけたんだ!』
『あたしにくれるの?』
『もちろん!マリは僕の一番大切な女の子だからね!…だから、さ』
『?』
『僕が、マリを守れるくらい、大きくなったらさ――…僕の、お嫁さんになってくれる?』
『…――うん!』
だいすき、ずっと、だいすきだよ――…
―――――――………
「エバンズ、待てよ!待てったら――…!」
「つきまとわないで、ポッター!私は貴方なんか嫌いだって、いつも言ってるでしょう!」
「エバンズ!」
ジェームズの一方的なおしゃべりの話し相手に耐えきれなくなったリリーは、荒々しい足取りであたしの前を横切り、女子寮に帰っていった。
それをジェームズは、ギリギリの所まで追いかけて彼女の名前を必死で呼ぶ。
何てことはない、いつも通りの、光景。
「くそ、参ったなぁ…!あ、マリ!」
「ジェームズ、今日もナイスなフラれっぷりだね!」
リリーに夢中であたしがいたことに気がついていなかったジェームズは、あたしの存在に気がつくと小さい頃と同じように無邪気な笑顔を向けた。
魔法薬学のレポートを片付けているあたしの隣に、どっかりと座った。
「もういい加減諦めなって。リリーの嫌がりようを見なよ」
「ぐ…!マリって、本当に昔から言うことが容赦ないよね…!でも僕は諦めないよ!」
あたしは苦笑いしてレポートに向き直った。
あたしとジェームズは、ホグワーツに入学する前から一緒に遊んでいた幼なじみだ。
家が近いこともあって、5年生になった今も、交流は深い。
ジェームズは、いつだってあたしに優しくて、楽しい気持ちにさせてくれた。
あたしだって、ジェームズと一緒にいたい気持ちは変わりない、はずだった。
ジェームズが、リリーの事を好きになる前までは。
あたしはジェームズが好きで、ジェームズはあたしが好き。
だけどそれはいつしか、あたしだけの一方通行な想いに変わっていて、ジェームズの視線の先はあたしじゃなくてリリーに変わっていた。
彼はきっと忘れてる。
あたしとの約束も、あたしを好きでいてくれた頃の思い出も、みんな。
だからあたしも、何も覚えていないふりをして、ただ楽しそうに笑うんだ。
「どうしたら、リリーは僕の事を見てくれるんだろう」
「とりあえずその暑苦しいアプローチは控えたら?」
――マリ、だいすきだよ
「暑苦しい!?ひどいよマリ…。僕はリリーを前にすると、気持ちが高ぶって…勝手にこういう態度になっちゃうんだよ」
「重症だね。でもそのままだったら、リリーもジェームズを見てくれないんじゃない?」
――ずっと、僕のそばにいてね、離れていかないでね!
「そうかなぁ…。うーん、なんか他に改善すべき点とか、ある?」
「あと?えっと…自意識過剰な所とか、それからしょっちゅう悪戯する所とか…それから」
――僕の、お嫁さんになってくれるよね
「…っ、あとは…嘘つきな所、とか」
「え!?ちょっと待って、最後のだけ身に覚えがないんだけど!僕はリリーに嘘なんかついて………マリ――…?」
急にうずくまったあたしを見て、ジェームズは心配そうに声をかけてくれた。
あぁ、嫌だなぁ。
我慢してたのに、こんなに簡単に溢れだしてきちゃうなんて。
ほんと、過去の約束さえなければ、ジェームズを想う心なんてなければ、こんなに辛くなかったのに、ね。
「マリ、どうしたんだい!?具合でも……」
「き、気にしないで。実はさっき床に落ちてた百味ビーンズを拾い食いしちゃって…」
「うそ!?そういうことしちゃ駄目って言ったじゃないか…!」
「あはは、ごめ…」
ジェームズに滲んだ涙を気づかれないように拭うと、あたしは教材をまとめて立ち上がった。
「ちょっと医務室行ってくる。ジェームズ、これ以上リリーに嫌われないようにね!」
もう、大好きな人の恋愛相談なんて、うんざりだから。
「任せてくれよ!だけどマリ、一人で大丈夫かい?」
「大丈夫だよ!もう、子供じゃないんだから」
そう、子供じゃない。
だからもう、幼い日の幻影にすがるのも、縛られるのも、終わりにしたいよ。
遠くで幸せに笑っていて。そうしたらあたしは、貴方から離れてゆける。この想いを、一生思い出さないように押し込めるの。
「じゃあね!」
あたしは扉に向かって走り出した。
やばい。あたし、ちゃんと笑えてたよね?
どうしよう。
今になって、涙が止まらないよ。
痛いって、辛いって、心がうるさく叫んでる。
「マリ…ごめん」
あたしが談話室を出ていった後、ジェームズがそう呟いたのを、あたしは知る由もなかった。