小さな冒険者と不思議な地図

□A strange encounter 〜始まりは突然に〜
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『ただいまー…』



彼の帰りの声が家の中に響くが、なにも帰ってくる事はなく、音は静かに消えた。


銀楼は一人暮らしだ。
彼の父親は数年前に旅に出てから連絡もとれていない。母親にいたっては顔さえ知らない始末だ。

母親と父親は親戚から聞いた話では、銀楼が物心つく前には離婚していたらしい。おかげで父親から母親についての話を一度も聞いたことは無かった。

父親も同じく、銀楼はまだまだ子供だった時、彼の父親は銀楼を他の者に預け、『ちょっと旅でもしてくるわ』とだけ言い残して突然姿を消した。

最初は実感できなかったが、日が経つに連れて置いていかれた寂しさを覚えていった事を彼は覚えている。成長し、大人に近づくに連れて、寂しさよりも父親が旅にでた理由のほうが気になっていった。もしかしたら大事な用があって出かけたのかもしれないし、あるいは銀楼を育てるのが面倒くさかったのかもしれない。


父親がいなくなってからは親戚と暮らし、知り合いも増えたが、前にも言ったように皆大人になっていき、一人だけ残されてしまった。


そこで彼は決心した。この暇から抜け出すには村を出るしか無い。かつて父親がしたように、自分も旅立てば何か変わるのかもしれない。彼は今夜、皆には内緒で村を出ようとしていた。


親戚や知り合いに見送られるのも気分的には悪くないが、この村には厄介な掟がある。成人するまでこの村から一人で出たらいけないのだ。

誰かに見つかると村の皆が道を塞ごうとするのは目に見えていた。 今まで村のすぐ近くなら親戚と来たことはあったが、2km以上離れたこともなく、あまり出てないのと変わらなかった。彼は自分の知らない、未知なる世界に憧れを持っていた。だから親戚や知り合いには申し訳ないが、一人で出る事を決めたのだった。



そして時は経ち、深夜を迎える。



外は暗闇に包まれ、昼の時と比べて静まり返っており、ひっそりとしていた。


物音を立てずに走り抜け、関所の壁をよじ上り、そして村の外を見た。


見張りは居なく、罠のような物も見当たらない。
彼は素早く壁を降りて村の外に足を踏み入れた。村の中より外の方が真っ暗で先がまるで見えない。


銀楼は近くにあった松明を手に取り、村を囲んでいる壁のほうを振り向いた。


“もう後戻りは出来ない。”


銀楼はわき上がる寂しさを堪え、再び暗闇に目を向けた。



『…じゃあな。』



彼は静かに走り出した。もう村の方を振り返ることは無かった。
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