小さな冒険者と不思議な地図
□Odd fox 〜嵐とウメと変わり者〜
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『起きて…ぎん…う…』
『……う…?』
気付けば銀楼はいつの間にか意識を失っていた。
ぼんやりとした頭で、彼は嵐によって船が壊されて海に放り出された所まで思い出した。
ゆっくりと頭を整理していきつつ目を開くと、そこには既に見慣れた竜の姿が目に入った。
『あ、銀楼!やっと起きた♪』
『…おはよう天宝。ここは…どこだ?』
『わかんない…私も起きた時ここにいて…』
銀楼は身を起こして辺りを見回した。どうやらここは空き家のようで、壁や床、天井はボロボロの木材で作られていた。
『…ありがとな天宝。ここまで運んできてくれて。』
『えっとね…ここに運んだのは私じゃないの。』
『え、じゃあ誰が俺たちを__』
そう返事をしようとしたとき、古びたドアから見知らぬ獣人が入ってきた。
笠を被っているため、顔はよく分からないが、体格や尻尾、笠からはみ出すように生えている耳を見る限り、狐の獣人らしかった。
だがよく見てみると尻尾が3つもある。三尾で笠を被った狐獣人となると怪しくて仕方が無い。
『…俺たちを助けてくれたのは…あんたか?』
『はい、そうデスよ。今朝、海辺を歩いていたらあなた達が倒れてたので…ちょっと驚きましたヨ。』
姿は怪しいし、ところどころ発音もおかしいが、命の恩人であることに変わりは無い。銀楼は一旦警戒を解くことにした。
『…助けてくれてありがとう。俺は銀楼。旅人だ』
『運んでくれてありがとう♪私の名前は天宝だよ♪』
『ワタクシの名前は来占(ライセン)と申しマス。銀楼さんと同じ、旅人なんデス。』
『よろしく。ところで1つ聞かさせてもらうが…ここはウメヤマ島か…?』
べつに天宝が地図になって調べれば、あっという間に分かる。だが来占の正体がよく分からない以上、考えもせずに変身してしまうと、この前の2人組のように天宝が狙われてしまう可能性がある。
そう考えた銀楼は、わざと来占に聞いてみたのだった。天宝も今は変身したくないらしく、じっと黙っていた。
『ええ、そうデスヨ。ここは世界でも有名な梅の名産島、ウメヤマ島デス。かつてこの島は梅のほかに柿とか桃とかもあったんデスガ、あまり効率が良くなかったんデス。そこでそこで思いついたのが農作物を1つに絞るという発送デシテネ、どの農作物を集中して作るかで意見が割れてしまって戦争がおこっちゃった時があるんデスヨ。この戦争は桃柿戦争と呼ばれてましテネ、桃派と柿派に別れて争ったんデス。まぁ最終的に勝ったのがノーマークだった梅という、何ともおかしな結果で幕を閉じたんデスヨ。面白いデショ?ワタクシも面白い旅人になりたいデスネ。あ、梅でも食べマスカ?』
『いらん!そして話が無駄に長い!』
怪しくはないが、異様なまでにおしゃべりな獣人であった。ここまで息継ぎ無しで喋られていたため、途中からのどうでもいい歴史話は彼らの耳には届いてなかった。
『え、えっと…来占さんはどんな用事でここに立ち寄ったの?』
『用って程でもアリマセン。ただの漂流、あなた達と同じ漂流デス。』
『お前もか…。あの悪天候に巻きもまれたのか?』
『ハイ……この島の付近はよく悪天候に見舞われましてネ…2、3日前に、ワタクシもあなた達と同じように漂流して、この島に着いたんデス。わざわざ特注で作ってくれた泥船が一瞬で溶けるように…』
もう銀楼はどこから突っ込んでいいのか分からず、静かに、だが重いため息をついたのであった…。