□コンプレックス
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彼氏の俺が言うのもなんだが、井上は本当にいい女だと思う。
俺には勿体ないぐらいだ。
不満だって一つもない。

…嘘だ、今は1つだけ…ある。



《コンプレックス》



「お邪魔しまーす!」

俺んちの玄関先。
井上がいつもの明るい声で挨拶をしたが、返事はない。

「悪いな、親父達は俺を置いて旅行でさ。今日は誰もいないんだ。」

まあ、だからこそ井上を家に呼んだんだけど。

「飲み物入れて持ってくからさ、先に俺の部屋に行っててくれよ。」
「う、うん。」

部屋の主より先に部屋に入ることに遠慮した様に頷くと、井上は階段を上がっていく。

俺もアイスコーヒーとオレンジジュースをグラスに注ぐと、足早に階段を上った。



「あ、ありがとう!黒崎くん!」

座卓の上に、鞄から出した教科書やら参考書を並べながら、井上が無邪気に笑って俺を迎える。

…本当、俺の彼女は天然というか純粋というか…またその度が過ぎていて困る。

家族のいない家に俺と二人…って段階で、「勉強教えてくれ」なんてのはただの口実だったのかもってちょっとは気が付いて欲しいもんだ。

で、いつもはその彼女の無垢な瞳の前に屈服してしまう俺だけど。

…今日は、違う。
はっきり言って、もう限界なんだ。

「えーと、じゃあ早速宿題からやっつけちゃいますか?」
「おう。」

井上の隣に座って、飲み物を飲みつつ適当に宿題を教えてもらう俺。

けど、井上には申し訳ないが頭の中は全く別のことでいっぱいだ。

時計を見れば、早2時間が経過。
手元の宿題も井上のおかげで順調に終わって…もう十分頑張ったよな?

「…なぁ、井上。」

そう自分の中で結論付けた俺が、隣に座る井上の肩にすっ…と手を伸ばし触れた、その瞬間。

「ひゃああっ!」

ずざざざっ…と音がしそうな勢いで俺から井上が離れる。

…ぶっちゃけ、滅茶苦茶傷付くんですけど…。

「…井上?」

あからさまに不満を顔に出せば、井上が申し訳なさそうな目で俺を見た。

「あ、あの…べ、勉強は?」
「終わりだ、終わり。宿題が済んだんだ、問題ないだろ?」

俺の隣、井上がさっきまで座っていた場所をぽんぽんと叩き、無言で戻る様に促す。

「あの…な、何にも…しない?」

両手を胸の前できゅっと組み、不安気にそう呟く井上。

「…する。つーか、しちゃダメなのかよ?」
「あの…キス…までなら…。」

モジモジしながらなかなか戻ってこない井上に半ば苛立ち、俺は井上の腕を掴むと強引に抱き寄せた。

「きゃっ…!」

俺の腕の中に、小さな悲鳴を上げた井上を閉じ込めて。
顎に手をかけ上を向かせると、井上のふっくらとした唇を俺のそれで塞いだ。

「…んっ…、んんっ…!」

僅かな隙間から舌を捩じ込んで、井上のそれに絡める。
井上の指が俺の服の袖口辺りをきゅっと掴んで、与えられる甘美な刺激に耐えているのが解った。

「…っは、はぁっ…。」

ゆっくりと井上を解放してやれば、桃色の唇は艶やかに濡れていて、その端から溢れる銀色の滴が俺を更に昂らせて。

欲望そのままにベッドへと井上の細い身体を沈めて、俺もまた直ぐに覆い被さって彼女の逃げ道を塞いだ。

「だ、駄目だよぅ、黒崎くんっ…!」

この期に及んでまだ抵抗する井上。
これまでの井上なら、キスの余韻そのままに身体を預けてくる筈なのに。

「何でだよ。俺もう2ヵ月もオアズケ食らってんだぞ?」

そりゃ、井上とこういうことしたくて付き合ってる訳じゃないけど。

…けど、身体を重ねる喜びや気持ち良さを知ってしまったら、知らなかった頃に戻れないのも事実で…まして俺は男だし。

井上は俺を好きだっていつでも言ってくれるけど…正直不安にだってなるんだ。

返答に困った様にうろうろと視線をさ迷わせる井上に、俺はずっと気になっていた、最悪の可能性を恐る恐る問い掛ける。

「…もしかして…井上、気持ちよくない…とか…?」

そりゃ…俺は井上が初めてだから経験は今まさしく積んでるところだし…知識だってその辺の本やDVDで手に入れたぐらいのモノしかない。

だからって井上に「その通りです」なんて肯定されたら、多分立ち直れないぞ、俺…なんてびくびくしていたが。

「あのっ…ち、違うの!そうじゃないの…!」

井上の口から出たのは否定の言葉で、俺は思わず安堵の溜め息を漏らしていた。

「じゃ、何で?」

井上の拘束を解き、上半身を起こしてベッドに座らせる。
井上の肩を抱いて、額にキスをして、頬に触れて。
乱暴にしたことを心で詫びつつ、彼女の答えを待つ。

「…あのね…前に見たテレビ番組でね…聞いちゃったの…。」
「何を?」

視線を合わせないままポツポツと話し出した井上が、俺の問い掛けに真っ赤になって答えた。

「その…む、胸って好きな人に揉まれると、大きくなるって…!」


…はい?




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