□華の咲く場所
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《華の咲く場所》



夜、寝所。

部屋の隅でゆらゆらと揺れる蝋燭の灯りが、障子に朧気に映る。

一護がその障子をカラリと開ければ、織姫は皺一つなく敷かれた二組の布団の脇に座っていた。
織姫は待ちわびていた主を見上げ、ふわりと微笑む。

「…お帰りなさいませ。」
「待たせたな、織姫。」

一護もまた穏やかに微笑み、寝間着姿になると織姫の隣に腰を下ろす。
そして同時に織姫の華奢な身体に手を伸ばし、抱き寄せた。
織姫は一瞬驚き目を見開いたが、すぐに柔らかな瞳になり、一護を労る様にゆっくりと己の身体を預ける。

「お疲れ様でした、お館様…。」
「二人でいる時は名前だ、織姫。」

そう一護に優しく窘められ、織姫は小さくクスリと笑った。

「だって、今の一護くんはまだ『お館様』の顔をしてるんだもの。つい…。」
「…そうか?」
「そうよ。でも…『お館様』の顔をした一護くんも好きよ。凛々しくて、頼もしくて…妻として誇らしい気持ちになるの。」

寝所に来る少し前まで、春水達と話し合いをしていた一護。
織姫は、彼の表情に僅かに残されていた緊張を拭い去る様にその頬に触れながら、「お疲れ様でした、一護くん」と言い直した。
一護は優しく頷き頬に添えられた織姫の手を取ると、そのまま織姫をかき抱く。

「織姫…。」

愛しいその名を呼びながら、一護の腕に無意識に籠もる力。
その体温を、鼓動を、呼吸を確かめるかの様に身体を摺り寄せる一護に、織姫は先程まで自分の中に漠然と存在していた不安が現実となったことを確信する。

「…戦が…始まるのね…。」
「……。」

一護から返ってきたのは、無言。
そしてそれは、織姫の呟きを肯定していた。

「…どうするの?」
「…山本重國側に、つくことに決めた。大義は、山本側にある。」
「…はい…。」

先程まで一護が春水達と話し合っていたその理由…それが、今まさに始まろうとしているこの国全土を二分するような大きな戦において、どちら側につくか…という、極めて重大な問題だったことを、織姫も知っていた。

「…恐らく、これが最後だ。この戦が終われば、もう危険因子は無くなる。後少しで、織姫の望む『争いのない世の中』が来るんだ。だから…。」
「…うん…解ってる…。」

そう呟きながらも、織姫は悲しげに目を伏せた。

戦が起これば、必ず誰かが傷つき、命を落とす。
そして、愛する人を失い絶望する人もまた、必ず現れる。
そして、大きい戦であればあるほど、流れる血も涙も増えるのだ。

この国でも…そして敵国においても、無数の愛し合う者達が引き裂かれ、傷付き傷付けられ、涙し、死んでいく。
それを想像するだけで、織姫の身体は引き裂かれるかの様な痛みを感じた。

そして何より…一人の女として、一護を失うことが織姫は怖かった。
かつて兄が戦場から還らなかった様に、一護もまた…そんな恐怖に、織姫は戦の度に襲われていた。

「一護くん…。」

織姫は、縋るように一護の背中に手を回す。
もし、この温もりを失ったら…きっと自分は生きていけない、と思う。
もし、一護が戦場で倒れる日が来るならば、自分も共に黄泉の国に旅立ちたい、と…。

「…織姫…。」

一護は、黙ったまま織姫を抱き締めていた。
「戦」と聞く度、優しい織姫が苦しむのは、一護も知りすぎる程に知っていた。
…そして、もし自分の身に何かあれば、彼女もまた後を追う…恐らくはそんな覚悟をしていることも…。

「…なぁに?」
「…いや、何でもない…。」
「…?」

少し困った様に笑ってみせる一護を、不思議そうに見つめる織姫。

そんな織姫に、一護は大丈夫だと言う代わりにそっと口付けて。
そして、不安に瞳を揺らす織姫の身体を、ゆっくりと布団に横たえた。











一護の手が、織姫の寝間着の帯を解いていく。
しゅるり…と衣擦れの音が暗がりに響き、現れたのは織姫の白く細い身体。
一護の手が寝間着を取り払っていくのを、織姫は頬を染めながらも無抵抗で受け入れる。

やがて蝋燭の僅かな灯りに、一糸纏わぬ織姫の身体が映し出された。

いつもは華やかな着物に隠されているその身体のしなやかな線が、白い肌とその肌に落ちる影によって鮮やかに浮かび上がる。

「一護…くん…。」

蝋燭の灯りを映して揺れる織姫の瞳には、既に城主でも優しい夫でもなく、一人の『男』の顔をしている一護が映る。

熱を帯びたその視線は強く自分を欲していて。
一護の蜂蜜色の瞳に見つめられただけで、織姫はくらり…と思考が溶けていく様な感覚を覚えた。

一護はそんな織姫にもう一度口付けを落とすと、その身体に無骨な手を這わせていく。

「…はっ…あ…!」

一護に触れられたその瞬間、急速に熱を帯び始める織姫の吐息、身体。

一護はその柔らかな身体の輪郭を撫で上げながら、彼女の首筋に、鎖骨に、肩に唇を這わせて、朱い所有の証を刻む。





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