□face
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1日仕事のオフが取れた、初夏の午後。
私のお仕事は基本的に平日休みにも関わらず、今日はたつきちゃんと上手く予定があって。

瑞々しい若葉が揺れる並木道が窓越しに見えるカフェで、久しぶりにお茶をした。

「ちゃんと一護に大事にしてもらってる?」

アイスカフェオレを飲みながらそう尋ねるたつきちゃんに、私は一瞬ケーキを頬張ったまま動きを止めて。
こくん…と甘いそれを飲み込んだあと、たつきちゃんに頷いて見せた。

「…うん。今日も、大学に行った帰りにウチに寄ってくれるって約束なんだ。」

今頃、大学で講義を受けているに違いない黒崎くん。
真剣な顔で教授の話に耳を傾ける彼を想像して、思わず顔が綻んでしまう私に、たつきちゃんは頬杖をついて「しょうがないな」っていつもの笑顔。

「あーあ、幸せそうな顔しちゃって、ご馳走さん。それにしても、小さい頃にはアタシに泣かされまくってた、あの一護がねぇ。」

カフェオレをストローでかき混ぜながら、クスクスと笑って。
楽しそうに…でもどこか懐かしげな眼差しで、たつきちゃんがしみじみとそう言う。

そんなたつきちゃんの一言に、カラカラとグラスの中で音を立てて回る氷を見つめながら、私は思わずポロッと本音を零した。

「…いいなぁ、たつきちゃん。」
「は?何が。」

ストローを動かす手を止めたたつきちゃんが、首を傾げる。

「だって、たつきちゃんは小さい頃の黒崎くんを知ってるんだもん。羨ましいなってちょっとだけ思っちゃったんだ。」

本当は「ちょっとだけ」じゃない。
もうずっと前から、ずっと羨ましく思っていた、私の「本音」。

でも、たつきちゃんはそんな私の本音を「あはは」と声を上げて笑って一蹴した。

「何言ってるの。織姫の方が、アタシの知らない死神だの何だのアッチの世界の一護を知ってるんでしょ?」










《face》











「そりゃ、たつきの言ってることが正論じゃねぇの?」

夜、私が昼にたつきちゃんとデートしたときのことを、黒崎くんに報告。

そして、ついうっかり話してしまった私の「本音話」に、黒崎くんは濡れた髪をタオルでガシガシと拭きながらそう言った。

「そ、そうだけど…。でも『幼なじみ』って、何かすごく特別な感じがしない?」
「…今の俺とオマエの方が、よっぽど『特別』な関係じゃねぇの?」

黒崎くんは慣れた手つきでタオルを洗面所にある脱衣かごに放り込むと、ベッドに腰掛ける私の隣にドスンと座る。

すぐ隣にいる彼の髪から漂うのは、私と同じシャンプーの香り。
そのことに、とくんと胸が鳴って…けれど、だからって胸の中のモヤモヤは消えてはくれない。

「それも、そうだけど…。」
「俺は別に、ガキの頃の俺を井上に知ってほしいとはカケラも思ってねぇよ。」

黒崎くんが、少しだけ不満そうな顔をする。

たつきちゃんが言うには、小さい頃の黒崎くんはとっても泣き虫で、お母さんにいっぱい甘えていたらしくて。
そんな黒崎くんは、きっとすごく可愛かっただろうなって思うんだけどな。

「それにほら、朽木さんと阿散井くんも幼なじみでしょ?だから、お互いのことすごく解ってるっていうか、もう夫婦になる前から夫婦みたいで…あ!もう結婚したから『朽木さん』じゃないんだったね。あとね、確か乱菊さんもね……きゃっ!」

幼なじみへの憧れを力説する私の腰に、ふいにかかる黒崎くんの大きな手。
そのままグッと抱き寄せられて、私の言葉を遮るように私の唇が黒崎くんのそれに塞がれた。

「んっ…!…ん…ぅ…。」

私の戸惑いをよそに、角度を変えては、また強く押し当てられる黒崎くんの唇。
くらくらしてしまう程の激しいキスに、私は支えを求めるかのように無意識に黒崎くんにきゅっとしがみついていて。

それに気がついたのか、彼は長いキスのあと、ゆっくりと私を解放した。

「…は…ぁ…。」
「…ルキアや恋次のことはどうでもいいだろ。」
「…え!?あ、あの、黒崎くん…きゃ!?」

次の瞬間、ぐるりと回る部屋の景色、視界には見慣れた部屋の天井。
私の身体はあっという間に押し倒されていた。

「…何だよ、イヤなのか?」

耳元で低く響く声。
同時に、黒崎くんの唇が私の首筋のラインをたどり始める。

「あっ…嫌じゃない…けど…あの、黒崎くんまだ髪がちょっと濡れてて…寝ぐせついちゃうよ?…んっ…!」

首筋に落とされる甘い刺激に身体を捩りながらの、僅かな抵抗。

勿論、解ってはいたの。

黒崎くんとお付き合いするようになって、彼が私の部屋に頻繁に訪れるようになって。

黒崎くんが私を求めてくる雰囲気というか、周期というか…何となくだけど、「あ、黒崎くん、もしかしたら今日あたりくるかな?」っていうのが、解るようになってきた。
だから、きっと今夜も彼とこうなることは予測済みだったのに、私は未だに彼と肌を重ねることに慣れなくて。
至近距離で濡れて光るオレンジ色の髪に、咄嗟に心の準備が整うまでの時間を求めようとする。

「どうせ今から汗かいて濡れるんだ。寝ぐせがついたら、明日の朝シャワー浴びるよ。」
「あ、ま、待って!」

けれど、それはほんの数秒の時間稼ぎにしかならなくて。
慌てた私が再び制止の声を上げれば、黒崎くんがゆっくりと首筋から顔を上げた。

「…今度は何だよ?」
「電気…消してないよ?」

不服そうな黒崎くんの肩越しに見える、部屋の蛍光灯。
その煌々とした明るさに、次の時間稼ぎを求めれば。

「…別にいいだろ?」

短くそう言い切った黒崎くんのオレンジ色の頭が、私の首筋から鎖骨あたりに再び沈んでいく。

「え、ええっ!?」

う、うそっ!
部屋の電気、消さないの!?

「え、あの、ちょっと待っ…ひゃんっ…!」

まさかの展開に取り乱す私のパジャマ代わりのTシャツに、おもむろにかかる黒崎くんの手。

そのまま、バッと捲り上げられて…私の2つの胸がさらけ出された。

「…偶にはいいんじゃねぇ?ほら、すげぇよく見える…。」



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