小ネタ文

□世界が終わるまでは…
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【11】





「…ただいま。」

黒崎くんに手を引かれて、帰ってきた部屋。
ダイニングの灯りを付ければ、テーブルの上には2人で食べる筈だった夕食。

「そっか。食べる前に部屋を飛び出しちゃったんだっけ…。」

今日は黒崎くんの誕生日だからって、せっかく張り切って作った夕食だったのに。
また温め直さなきゃ…そう思って黒崎くんの手を解こうとしたけれど、私の手はキュッと強く握られたまま。

「黒崎くん…?」

私が振り返れば、黒崎くんは酷く思い詰めたような顔で私を見ていた。

「なぁ井上…浦原さんと、どんな話をしてたんだ?」
「え?えっと…その…『ちゃんと向き合って、本当のことを話しなさい』って…。」

その問いかけと眼差しから逃げる様に、ゆるゆると視線を泳がせて俯く。

浦原さんの言葉を思い返す私の中で交錯する、期待と不安。
でもやっぱり不安の方が大きくて…縋る様に指先で黒崎くんの手の温もりを辿る私。

「そっか。俺もたつきに似たようなこと言われた。」
「たつきちゃん…も…?」

黒崎くんは、私の手をゆっくりと離すと、私の両肩に手を置いて。
そして、真正面から私の瞳を見つめてきた。

その強い眼差しから目を逸らすことができない私の足が竦む。

怖くて。
逃げ出したくて。

…やっぱり無理だ。

だって、私の本当の気持ちなんて黒崎くんに迷惑になるだけだもの。

言えるわけないよ。
きっとすごく重たいもの…。

キュッと唇を噛む私の目の前、黒崎くんは大きく深呼吸をすると、ゆっくりと口を開いた。

「井上…俺、たつきの言う通り…今までオマエに本当の気持ちを言えずにいたんだ。言ったらオマエに嫌われんじゃねぇかとか思って…怖かったんだ。」
「…え…?」

一瞬、耳を疑った。
だって、黒崎くんの声で紡がれたのは、今私の胸を占める感情と全く同じ言葉。

「違うよ、嫌われたら…捨てられたらどうしようって不安だったのは私だよ!」
「何で俺がオマエを嫌うんだよ?」
「だって私、何の役にも立ってないのに…!」
「俺はオマエを、10年待ったんだぜ?オマエが傍にいてくれる…それ以上に望むものなんかねぇよ。」
「…!」

その黒崎くんの言葉に、思わず息を飲む。
私を10年待っていた…そう、彼自身の声で打ち明けられて。
身体の震えが止まらない私の目の前、黒崎くんがフッと自嘲気味に笑う。

「いや…あるか。」
「え?」
「…俺が望むのは…オマエの『全部』だ。」
「…黒崎くん…?」

そう告げた黒崎くんが、私の身体をそっと抱きしめる。

こんなに優しく抱きしめられているのに、伝わる温もりが、切なくて苦しくて。

ねぇ…黒崎くん。
私…自惚れてもいいの?

私が切ないのと同じだけ、アナタも苦しかったんだ…って。

信じていいの?

私がアナタを想う気持ちと、アナタが私を想う気持ちは、同じカタチをしているんだ…って。

「…軽蔑するか?俺は10歳も年上で…オマエはまだ17歳のままだって解ってて…それでも俺は…。」
「…いいの?私まだ…全然黒崎くんに釣り合わないよ?」
「俺こそ、10歳も年上のオッサンだぜ?」
「黒崎くんは、きっと何歳になってもカッコいいよ。」
「あんまりハードル上げんなよ…。」

黒崎くんが、苦笑混じりにそう呟くのを聞いて。

ふわり…と身体が宙に浮く感覚、私の身体が黒崎くんごとソファに沈む。

「…井上…好きだ。」
「黒崎くん…。」
「ずっと、一緒にいたい。」
「ずっと?ずっとって、いつまで?」
「…世界が終わるまで。現世も、尸魂界も…全ての世界が終わるその日まで、何度でも生まれ変わって…ずっと一緒にいよう…井上。」
「世界は、終わらないよ?今のシステムが危なくなったら、私がまた霊王になって皆を守るから。」
「させねぇよ。何があったって、オマエは俺が離さない。」
「じゃあ…ずっと一緒?」
「おう。ずっとだ。いつか、10年なんて誤差だって笑い飛ばしてやるからな。」
「うん…。」

黒崎くんの温もりと、重みと、匂いと、優しさと…全てに包まれて。

泣きたいぐらいの幸せって、きっとこんな風なんだ…って実感する私の両頬に、黒崎くんの手が触れる。

そのまま、黒崎くんの顔が近付いてきて、次に触れたのは唇。

そして、黒崎くんの手が、指が、肌が、私に触れる。

まるで、10年の空白を埋めるかの様に。

触れて、触れられて、1つになって。

10→0。

2人の距離が、ゼロになる。




(2015.09.09)
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