□恋愛課外授業
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「いい…か?」
「うん…。」

さっきまで、指を差し入れていた辺りを探り、高ぶった俺自身をあてがって。
念のため俺が尋ねれば、こくり…と首を縦に動かす井上。
その潤んだ瞳と赤く色付いた頬に、ごくり…と喉が鳴る。

やっと繋がれる…そんな喜びと。
上手くできるか…そんな不安と。
大切にしたい…そんな愛しさと。
めちゃくちゃにしたい…そんな欲望と。

俺の中で交錯する色んな想いごと、俺は井上の中にゆっくりと押しこんだ。

「……っ!」
「…く…!」

あまりの快楽に、思わず声が漏れる。

こんな、こんななのか。

井上のナカはこんなにもあったかくて、俺に絡みついてきて…。

初めて味わう快感にぶるぶるっと震える身体。
井上のそこは断続的にキュッと俺を締め付けてきて、気を抜いたら達してしまいそうになる。

「井上っ…!」

更なる快楽を貪りたくて、本能のままに腰を動かそうとしたけれど、俺とは対照的に、井上が辛そうに唇を噛み締めているのが目に入って。
ほんの僅かに理性が本能を上回り、俺の腰は動きを止めた。

「井上…やっぱ痛いのか?」
「平…気…思ってたより、大丈夫…。」
「嘘つけ。」

相変わらず、自分の痛みや辛さを隠そうとする井上の髪をそっと撫でて、幾度も口づけて。

無理しなくてもいいから…と耳元で告げれば、井上の身体から、少しずつ少しずつ力が抜けていくのが解った。

「…黒崎くん…。」

そうして、井上の痛みが和らぐのを繋がったまま待つ俺を、かすれた声で井上が呼ぶ。

「ん?」
「台風…すごい…ね…。」

薄暗く静かな寝室に響く、激しい雨と風の音。

先ほどまで行為に夢中で気づく余裕すらなかったが、確かに窓ガラスに叩きつけるような雨と風は台風の接近を物語っている。

「ああ。すごいな。」
「これからも…台風が来るたびに、思い出しちゃうかもしれないね。こうして、黒崎くんと1つになれたこと…。」
「いいんじゃね?俺にとっても、オマエにとっても、一生に一度しかない『初めて』なんだから…さ。」
「うん…。」
「ついでに言うなら、いくら声出しても大丈夫だぜ?どの家も窓は締め切ってるだろうし、風と雨の音がすげぇからさ。」「やだ、もぅ…。」

井上は恥ずかしそうに俺の肩にこつりと額を当てて。
そして、さっきまでシーツを握りしめていた小さな手を俺の背中におずおずと回した。

「井上…?」
「いいよ…黒崎くん…多分、大丈夫だから。」
「けど…。」
「嘘じゃないよ。ちょっと怖いけど、でも本当に、大丈夫。だから…来て…。」
「…ああ…。」

きゅっ…と俺の背中にしがみつく井上は、多分俺が「待っている」ことに気づいていて。
彼女なりに、精一杯俺に応えようとしてくれているんだ…そう思ったら幸福すぎて胸が痛くなった。

「動くぞ、井上…っ!」
「う、ん…あ、ああっ…っ!」

…ぶっちゃけ、その後のことはあんまり覚えてない。

腰を動かしたら、あんまりにも気持ちが良すぎて、頭ん中が真っ白になって。
井上が今までに見たことないような顔で、聞いたことないような声を上げるから、馬鹿みたいに井上の名前を呼んで、その身体を突き上げて。

そうして、昇りつめる直前に、何も「つけて」ないことに気がついて、慌てて井上のナカから引き抜いた。

「…くっ…やべぇっ…!」
「く、黒崎くぅんっ…!」

間一髪…井上の薄い腹に、吐き出す。

「はぁ、はぁ…ごめん井上…汚した…。」

しばらくは、稲妻のように全身を駆け抜けた快感に、身体が動かせなくて。
どうにか息を整えながら俺が井上に謝れば、彼女もまた肩で息をしながら、ふるふると首を振った。

「謝らないで、黒崎くん…私、汚れてなんかないよ。」
「井上…。」
「すごく…すごく幸せだよ…。」

そう言って、ふわり…と井上が微笑む。

ああ…そうだよな。
幸せだよな。

だって、俺とオマエ…ついに結ばれたんだもんな。

「…俺も…。」

ああ、やっぱり、好きになったのが井上で良かった…そんなことを改めて思いながら、俺は井上にそっと口付けた…。










「…すげぇ雨だな。」
「うん…。」

その後も、ベッドでまったりしながら肌を重ねた余韻に浸って。
あともう少し、井上とこうしてくっついていたいなぁ…なんてぼんやり考えていれば、きゅるる…と俺の腹が小さな音を立てて空腹を訴えた。

「今、何時だ?」
「ん…と、7時ちょっと前だよ。」

俺の腕の中でもぞもぞっと動いた井上が、まだ少しだるそうに枕元の時計を見る。

「そっか。どうりで腹が減るワケだ。」
「うん。お腹すいたね。」
「けど、この嵐じゃ外食は無理だなぁ。」
「あ…パスタならすぐにできるよ?確か買い置きがあった筈だから。」
「じゃ、それで。」

出来ればずっとこうしていたいけど、そういう訳にもいかない。

せめて、先程までの情事が夢ではなかったことを確かめたくて、もう一度井上を抱き寄せれば、井上もまたこの温もりが名残惜しのか、俺の胸板にすりっと頬を擦り寄せた。

「…けど、メシの前にシャワー浴びるか。汗かいたし。」
「うん。」
「で、2人でメシ作って。」
「うん。でも、パスタ茹でて、ソースあっためるだけだけどね。」
「で、2人でパスタ食って。」
「うん。」
「でさ。」
「うん…?」

俺の腕の中、きょとんとした瞳で言葉に詰まる俺を井上が見上げる。
その瞳の純粋さに、少し躊躇って。
けれど、やっぱり、どうしても。

「その後…もっかいここで、していい…か?」

俺が思い切ってそう言えば、元々大きな目を更に見開いた井上は、その直後、ぼふっ…と音がしそうな程に真っ赤になった。

「これから先、俺だけじゃなくて井上と一緒に、もっと気持ちよくなれるように『勉強』させてくれねぇ?」
「………うん…。」

俺のそんな申し出に、小さく頷く井上。

台風が最接近したその夜、暴風雨を言い訳に、俺は井上の部屋で一夜を過ごした。




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