「休憩ー!!」
主将の日向の声で伊月は立ち止まり、大きく肩で息を吸った。
新設校の誠凛高校にはバスケ部が無かった。
入学する前に分かっていたことだがやはり小学校からやっていたバスケを辞めるのは抵抗があった。そうして悩んでいたときに男子がバスケ部を作ろうとしていると知り、そこへ同じ中学出身の日向に頼み込みなんとか入部したのだった。
男子バスケ部のメンバーは、みんな人柄も良く女子の伊月にも気を配ってくれるので、カントクをやっているリコもいることもありなんとかやっていけた。
とはいえ、やはり高校生にもなると、かなり体格や体力の差が出てくる。
伊月は元々もっていた空間認識能力でなんとかその差を補いつつやっていた。
「あっつー・・・。」
もう5月で、激しく運動すると次から次へと汗が吹き出る。
「あー…しまった。」
汗を拭おうとベンチに向かったのだがタオルを部室に置いてきてしまったようだ。
仕方なくシャツを持ち上げて、汗を拭う。
体が熱く、シャツの裾で仰いで風を送り混んでいると、すごい勢いで足音が近づいてきた。
「・・・日向?」
「おま・・・っ、何やってんだダァホ!!」
「いや、タオル忘れたから・・・。」
なぜか、伊月の前で立ち止まった日向にものすごい勢いで怒られた。
暑苦しいからやめてもらいたい。
訳も分からず伊月が返事を返すと、日向は一旦動きを止め、キョロキョロしだした。
日向は自分が持っていたスポーツタオルに目を留めると、一瞬躊躇し、その後強引に伊月の頭にかぶせてくる。
「痛い痛い!!何!?」
「バカ!・・・ぇてんだよ!」
「は?何て?」
「だからっ・・・腹見えてた・・・!」
目を逸らしつつ言う日向の言葉を何が言いたいのか時間をかけて理解し、冷めかけていた顔がまた熱くなった。
「・・・なっ、セクハラだ!」
「はぁ!?誰がっ、セク・・・。つーかお前はもっと恥じらいを持て!!」
「ぅぐ・・・っ。」
それを指摘されてしまっては言葉が出ない。
やっとの事で、
「お父さんか・・・。」
という言葉を絞り出した。
「なっ…!!お前、少しは、」
「ありがと。」
「・・・っ。・・・どういたしまして。」
(この場所では、君の前では、それだけ心を許してるんだって分かって欲しい)
「日向のタオル、汗くさ・・・。」
「・・・てめぇ、シバかれてぇのか。」