Tears to turn rainbow 〜涙が虹に変わるまで

□泣いた日、笑った日。
1ページ/25ページ

「お疲れさまでした」

「かんぱぁーい」

僕達はビールジョッキをカチンと合わせた。芹沢さんを一時間半も待たせてしまって本当に申し訳なかった。

「ぷは〜!仕事上がりのビールはやっぱり格別だなあ!」

「一気にいきましたね」

「はい、やっぱりこれ≠フ為に一日頑張ってますから」

芹沢さんは少し目を潤ませながら量がほぼ空になったジョッキの中を笑顔で覗いていた。
仕事上がりのビールは確かに格別だ。
しかし…こんなに勢い良く飲むとは。今日は先が思い遣られそうだと一抹の不安が僕の頭の中を過る。

「さあ遠慮なくどんどん召し上がってくださいね。お約束通りご馳走しますので。ここの店はお魚が美味しいんですよ」

「では、遠慮なくっ!じゃんじゃんいっちゃいますっ。あっ、お姉さあーん!生追加で」

彼はさっそく近くを歩いていた店員の女性を捕まえてビールの追加注文をしていた。





僕たちはお互いの近況…

といってもほぼ仕事絡みの話ばかりだったが二時間くらい話していた。
しかし肝心のしおりさんのこと≠ヘ聞けずにいた。

話を切り出すタイミングを計ってはいたのだが、なかなかいい言葉が見つからずにいた。


忘年会シーズンたけなわの店内は仕事帰りのサラリーマンやOLでほぼ席が埋まっているような状態で賑わっていた。ガヤガヤと騒がしいくらいだ。

彼はなぜか入店してからずっとなんだか落ち着かない様子だ。時々キョロキョロと周りを見回していた。

「どうしましたか?何か気になる事でもありますか?」

「今さら…なんですが、成瀬さんが連れてってくれる店だから俺はてっきり高級店かと思ったけど…居酒屋ですね」

芹沢さんはつい本音が出てしまったらしくしまった≠ニいう顔をして

「すんません」

と僕に頭を下げてきた。

「いえ、全然芹沢さんは悪くないですよ」

と微笑みかける。

「僕はこういうお店の方が好きなんです。落ち着く、というか。高級店はなんだか僕には似合わない気がします」

「いえっ、そんなことありませんよ。成瀬さんはなんだかワイン≠チていうイメージです」

芹沢さんは悪い意味で言っているのではないのは十分理解できたが、なんだか彼にそんな風に思われてるのが残念に思った。

もちろん僕はワインは好きだし家にも置いてあって仕事が終わってから一人で飲むことも度々ある。僕はプライベートでは飲みには行かない、というより飲みに行く相手が今までいなかった。
行く時は相手は専らクライアントだから場所はそれなりにセレクトしている。そのせいだろうか。

前に堂島さんにも同じような事を言われたことがあった。

『先生にはワインが似合いますね』

と。
どうやら他の方たちから見ると僕はそんなイメージらしい。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ