vs.キラ

□「schedule」
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「schedule」

「当日はこの予定通りに動いて。」



「ゲッ…追って来やがった」

今、俺等は、高田の護衛共に追い駆けられている。
所謂、カーチェイスと言う奴だ。

「予知通り…。」
『ニヤリ…』

マリアが口許だけに、黒い笑みを浮かべた。

『カチャッ…カチャッ…』

助手席に座るマリアは、移動用の小さなトランクを開けると、其処から、大量に有る、細いノック式ボールペンの様な物から、一本だけ取り出した。
筒の中がぼんやりと青白く光っている。

アメリカに居る時期から、改良していた、黄リン爆弾だろう。
(マリアは、ルシファーボムと呼んでいたっけ…)

「…本当に使うの?」
「安全性は保証するよ。…僕等に対しては、だけど…。」
「…本当、容赦無いな…」
「こうでもしないと、…僕等が、殺される。」

今までにも、何回か観た事が有るモノとは、少し違う真剣さだった。

「…僕等の生命が賭かってるんだからね…。防衛本能、正当防衛って、奴だよ…。」

マリアはよく、俺等が殺されない為に、策を練っていた。
(予知能力を使った、対処法を考えるだけだが…)
だが、今回は明らかに違う。
他人の生命を奪ってしまうかもしれない、と言う恐怖と緊張感の中、動いているからだ。

メロとマフィアに居た頃より前から、人間を殺す事に慣れていた筈なのに、この事件の結果を知っている筈なのに、いざ、と言う瞬間に引き金を引く指を戸惑ってしまう、らしい。

簡単に言うと、詐欺や密輸で利用された何も知らない一般人を、処罰するのは如何な物か、と言う事らしい。

…まったく、お優しい事で…。

「…今日はちゃんと殺るから。…哀歌も鎮魂歌も歌わないから…。」

弱々しく、彼女が呟いた。

きっと、無理だろうな。
この娘は、優しいから。

「出来る限りで良いからね?」
「…出来る限り、ね…。解ったよ。」

マリアは、日本の1月の寒い冷気に当たる事にも躊躇わず、窓を開けてルシファーボムを高田の護衛共の車に投げ付けた

此処で、ルシファーボムの説明をしよう。
何でこの娘がルシファーボムを創って、使おうとしてるのか。

黄リンは、空気に触れると、55℃で自然発火する。
且つ、猛毒だ。
つまり、高田の護衛共に、助かる道は無いって事。

ルシファーボムは、単純な構造だ。
先ず、水の入った細い筒状の薄いフィルムのその中に、黄リンを入れて封をする。
そして、ボールペンみたいな容器の穴を、幾つかの小さな石灰の塊で塞ぎ、黄リンが入ったフィルムを置き、容器とフィルムの周りをガソリンで満たす。

ガソリンが漏れない事を確認したら、完成。


ノック部分を押し、針を貫通させて水が抜けたら、石灰が水に触れ発熱し、その熱で55℃以上になったリンが、筒内を対流する空気に触れて自然発火。
ガソリンに引火して、爆発的に燃える。

単純且つ、確実に燃える。

リンが燃えなくても、口に入ったら、猛毒で死亡。

爆発と毒物の二重の保険を掛けた殺傷兵器。
更に、マリアの予知能力を使って、退路を絶つ。

殺すつもりなら、其方も生命を賭けろと言う、マリアの挑発。


此処で、高田の護衛の大半を叩けば、この後の行動が楽になるので、此処で情を掛ける訳にはいかない。

掛けるとするならば、非情だ。


高田の護衛共の車の下にルシファーボムが、2・3度跳ねて潜り込み、爆発した。

ルシファーボム自体の爆破力はそれ程でも無いが、当たり所が良かったのか、ガソリンタンクの真下で爆発したらしく、車が1台横転した。

そして、その1台が道を塞ぐ様に車道に対し垂直に成り、更に2台が避け切れずに追突し、炎上した。

「やった!」
「喜んでる場合じゃない。まだ3台しか減ってない。すぐに補充される。次の角、右折して。」
「右折ね。了解」
「其処までスピード出して、直進すると想わせてから右折して。」
「舌噛まない様に大人しくしててよ?!」


「ちょっと離した」
「否、先回りされてる。次の次の交差点で待ち伏せされてる。」
「マジかよ…。…逃げ切れない?」
「…逃げ切れない。でも、捕まえられないよ。」
「え?」
「良いから、僕に任せて。」




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