Wammys

□「アントワネット」
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「アントワネット」

『あの子ってさー、変わってるし、生意気だよねー』
『あ、解るー』

陰口。

『だからさー、ちょっと想い知らせてあげようよ?』
『いいねー』

「…兄様…。」

アリアが、瞳に涙を溜めて、俯いて、やって来た。

「どうしたの?」
「…リヴァーが居ないの…。」
『くすん…』

リヴァー、Lと母様が彼女に贈ったぬいぐるみのクマ。
所謂、テディーベア。
それが居ない、と、言うアリア。

「…何処に置いて来たの?…」
「ううん。朝から、居ないの。」

『クスクス…』

窓の側から聞こえる、嘲笑い声。
その姿は、逆光と揺れる薄手のカーテンの所為で視えないが、多分、アリアと同室の年上の女子だろう。

「…」
「…」
「…アリア、おいで」
「…」
『ぎゅっ…』
『なでなで…』

不自然にならない程度に、アリアを慰める様に抱き締め、不自然にならない程度に、妹を宥める兄を演じた。

俺は、静かに瞳を閉じて、アリアに意識を集中させる。

『なでなで…』
「良い娘、良い娘…」
(…あの人間達だろうね…)

俺は想った。

(…知ってたけど…。)

アリアが、それに反応する。
互いに互いの心を読んで、心で会話する。
所謂、読心術やテレパシーの様なモノだ。

だがしかし、口唇は読心術を悟られない様に、宥める兄と泣きそうな妹を演じる。

個人を特定する気は無いが、ハウスの中には、読唇術を使える人間も居るらしい。
それが、アリアと同室の女子の一方、或いは両方だった場合と、周囲を走り回る人間に黙って抱き合っているのを不審に想われるのに備え、心以外は、リヴァーを唯のぬいぐるみと想わせ、且つ、それを隠された妹を宥めている様に想わせる為に、演じ続ける。

「アリア、良い娘だから、もう泣かないで。俺と一緒に探そ?」
(…どうする?絞める?…)
「…何処に居るか、解らないよ…。」
(…。良い…。)
「見付かるまで、一緒に探してあげるから」
(…良いって…?)
「…ゴミと一緒に、燃やされてても?」
(…リヴァー、回収して、終了。)
「あー、それはちょっと無理」
(…はいはい…)
「…切り裂かれてても?」
(…絶対、殺しちゃダメだからね?)
「出来る限り、縫い直してあげる」
(…解ってるって…)
「…一緒に、探して。」
(…。本当に?)
「アリア、一緒に探そ?」
(…本当だって…)
「うん。
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