短編集

□無意識な彼女には要注意
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「あ、あの…ベルゼブモン?」

「なんだ?」

「いや、なんだじゃなくて…なんで進化したの?」


時を遡ること数分前、私はソファに座って膝の上にインプモンを乗せていた。

目の前にいると弄りたくなってしまって、頭を撫でたり、耳を触ったり、手を握ってみたりしていた。それをインプモンは拒むことは無かったが、頬を赤く染めていた。

そんな姿に私は毎回キュンキュンさせられている。
可愛くて、とても愛しい…私の大切な人…いや、デジモン?

そんなことを思っていたら、無意識に私はインプモンをギュッと抱き締めていた。勿論インプモンは顔を真っ赤にして暴れだした。暴れるインプモンを更に強く抱き締めていると諦めたのか、抵抗がなくなった。

まあ、照れ屋で素直じゃないのは知ってるけど。

私は抱き締めていた腕の力を抜いて、インプモンを自分の方に向かせていた。まだ赤い顔をしていたインプモンは、軽く私を睨んでいた。

うん、可愛い。それに思わず笑ってしまった。笑ったことにインプモンは怒り出したが、顔が赤いせいでちっとも怖くない。

私は再びインプモンを抱き締めて、おでこに唇を寄せ、キスをした。

腕の中にいたインプモンがピシッと硬直したのが分かった。唇を離すと、インプモンは体を震わせていた。なんだ…?

すると次の瞬間、インプモンの体が輝き眩しくて目を閉じたていたら、膝の上にあった重さがなくなった。不思議に思って目を開けようとしたら、肩を押されソファに体を沈めた。驚いて今度こそ目を開けたら、3つの赤い瞳と目があった。

そう、そこには可愛らしいインプモンの姿ではなく、逞しくなったベルゼブモンの姿があったのだ。

なん、だと…?!

そして冒頭に戻り、何故進化したのか聞いたのだった。

「………」

だったんだが…む、無言だと…?あれ、無視された?!

何故か進化したベルゼブモン…ま、まあ進化したのは置いとくとして…。

「何でこんなことになってるの…!?」

そう、私は現在進行形でベルゼブモンに押し倒されているのだ。なんで!?

目の前には3つの赤い瞳が私を見下ろしていて、顔の両側にベルゼブモンの手があり、更には私の体を跨いでいるせいで、全く身動きがとれません!ひいい!どうしたらいいの!?

頭の中でぐるぐると考えていると、ベルゼブモンが口を開いた。

「…お前…さっきの止めろ…」

「…え?さ、さっきの…?」

さっき…さっきの?さっきのって何!?混乱しているせいで全く頭が回らない。

「…だから、」

ベルゼブモンの顔が近付いたと思ったら、チュッと可愛らしいリップ音が聞こえた。

「へ?」と間抜けた声を出してしまった。ベルゼブモンの顔をジッと見ていたら、少し恥ずかしそうに頬を赤くしていた。

「…好きな奴にこうゆーことされたら、自分が抑えられなくなる」

ベルゼブモンは私の前髪を指に絡め、スルッと額を指先で撫でた。

その撫でられた場所はさっき…ベルゼブモンがキスをした…。

だんだんと思考が追い付いてきて、そこまで考えたら私は恥ずかしくてゆでダコのように真っ赤になった。

いや、自分じゃどんな顔をしてるかわからないけど、絶対真っ赤!だって顔が熱いもん!

ベルゼブモンが言った通り、好きな人(デジモン)にやられたら、これはヤバイ!私は何てことしちゃったんだ!もう私、顔から火が出そうです!

すると赤い瞳は細くなり、口元は少し笑っていた。
うわ!意地悪そうな顔!

「顔、赤いぞ?」

「っ、ぁ…」

言い返そうと思ったけど、咄嗟に言葉が出てこなくて、どうしようかと口をパクパクさせていた。しかしそれもほんの数秒で、そのあとはもう恥ずかしくて両手で顔を隠していた。

顔を隠しているせいで何も見えないが、ベルゼブモンが溜め息をついたのが聞こえた。うぅ…呆れちゃったかな…。

すると頭に何か温もりを感じた。それは、私の頭を優しく撫でていた。

そろそろ顔を隠してた手を退けると、意地悪そうな顔ではなく、優しい顔をしたベルゼブモンが私を見ていた。

「俺が言ってること、分かるな…?」

私は然程鈍感ではないから勿論分かる、先程体験もしちゃったので。それにコクリと頷く。

「その…ごめん、ね?」

「…別に悪いとは言ってねえ。ただ…次から気をつけろってことだ」

頭を撫でていた手は、今度は頬を撫でた。壊れ物を扱うかのように、優しく撫でるそれがあまりにも心地好くて、頬を撫でるベルゼブモンの手に自分の手を重ねて目を閉じ、私はその手に頬を擦り寄せた。

やっぱりベルゼブモンが大好きだなって実感する。すごくドキドキするけど、胸が温かくなる。なんだか口元が笑いそうだ。いや、もう絶対に笑ってる。

すると体に重いものが乗っかっていた。うぐっ、て変な声が出て、ちょっと恥ずかしい。目を開くと目の前にいたベルゼブモンが、私にのし掛かるようにして倒れて来ていたのだ。どうりで重いはず…でも何故倒れてきたか分からないから、内心少し焦っていた。

「べ、ベルゼブモン…どうしたの?」

「……反則だ…っ!」

チラッと見えたベルゼブモンの顔は赤くなっていて、絞り出すようにして聞こえた言葉に、私は首を傾げるのだった。



無意識な彼女に要注意


(俺、気をつけろって言ったのに…)

(もう耐えれるか分かんねえ…!!)

(てか、我慢しなくても良いのになぁ…)





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