短編集
□KISSキスきす
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「名前…」
「ちょ、ちょっ…んっ、ちょっと…!」
向かい合わせに脚の上に座らされて、私の顔を両手で挟んでくるベルゼブモンは、やたらとキスをしてくる。頬や額に瞼、もちろん唇にもキスの雨を降らせてくる。あのね、嫌じゃないんだけど…は、恥ずかしいんですよ。おかげで私の顔はリンゴのように真っ赤になってやしないか心配です。ベルゼブモンの肩に両手を置き、グッと力を入れて押し返そうとしますが、私と彼じゃ力の差は歴然。彼は私の意思とは関係なく、なおもキスの雨を降らせてくるんです。
「名前…」
そんな熱っぽい声で耳元で囁くように私を呼ばないでえええ!なんか色気がムンムンよーーー!!ギュッと目を瞑っていると、瞼にキスをされた。ゆっくりと瞼を上げると、赤い瞳が私を見ていた。
「目を反らすな…俺を見ろ」
み、見ろってそんなの…む、無理!恥ずかしすぎてもう絶対涙目!そんなことを思ってる間にもまた唇を塞がれる。抵抗しようにも、こんな優しくされたらどうしようもできなくなる。でも急にこんなキスをしてくるのはなぜなんだろ。それはどうしても聞きたい…。彼の唇が離れ、今だと思い彼の名前を呼ぼうと口を開いたら…。
「べルッ、…んっ!?」
また唇を塞がれ、それで終わりではなく彼の舌が唇を割って入ってきたのだ。これにはさすがに驚いた。すぐに離れようとベルゼブモンの肩を押すも、逆に左腕で腰抱かれ、右手で後頭部を押さえられてしまい逃げれなくなってしまったのだ。
「…はぁっ、」
「ふあっ…んっ、んんっ…」
そうこうしてる間も、彼の舌に私のそれも絡めとられてしまい、私はされるがままでもう諦めて目を閉じ彼の舌を受け入れていた。クチュクチュと水音がやけに響く。口の端から零れる唾液。さすがに息が苦しくなり彼の肩を叩くと、仕上げと言わんばかりに私の舌を吸い上げた。まさか舌を吸われるとは思いもしなかったから、閉じていた目を開けてしまった。するとベルゼブモンの赤い瞳と目が合い、彼はイダズラが成功した子供のように笑っていたのだ。カァ…と顔に熱が集まるのが分かる。チュッというリップ音と共に彼の唇が離れた。
「はぁ…、はぁ…」
「大丈夫か?」
息が切れ、ベルゼブモンに寄り掛かっていると、労るように優しく頭を撫でてきた。「大丈夫か?」だって?大丈夫じゃないわよ!もう…こ、腰が抜けた…。私が寄り掛かっている間も彼は額や瞼、頬にキスをしてくる。ほ、ホント今日はどうしたんだろ?
「ねえ、ベルゼブモン…」
「なんだ」
「その…なんでこんなに…き、キスするの?」
ずっと聞きたかった。これまでキスは何回もしたことあったが、こんなにされることはなかった。
「………」
「べ、ベルゼブモン…?」
ずっと黙ったままの彼。え、ちょ、なんで黙るの?寄り掛かっていた彼から少し離れて、彼をジッと見つめる。すると彼は閉ざしていた口を開いた。
「最初は、ただ名前に触れてえだけだった。けど、キスするたび恥ずかしそうにするお前がすげえ可愛かった。今も十分に可愛いがな。んで、もっとその顔が見たくなってな…それで、」
「キスをしたと…」
「おう」
いや、そんな「おう」って…。うああ…めちゃくちゃ恥ずかしい…。その恥ずかしさを隠すようにベルゼブモンを睨み付ける。
「……その目…誘ってんのか?」
逆効果あああ!!いやいやいや待て待て、どこを見てそうなった!?私睨んでたでしょ!顎に指を添え、クイッと持ち上げられ、必然的にベルゼブモンと目が合うことになる。
「そんな睨んだって逆効果だぜ?そうゆーふうにされっと、逆に男を煽るんだ…」
フワッと一瞬だけ浮遊したと思ったら、目の前には天井とベルゼブモンの顔。私の背には床がある。…え、嘘。
「誘ったのはお前だ…覚悟しろよ?」
ニッと笑う彼は、心底楽しそうでした。
KISSキスきす
(ヤバイ、立てない…!)
(キスだけで腰抜かすなんて、まだまだだな)
(あんたのキスが上手いだけだ馬鹿あああ!!)
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