短編集

□小さい悪魔と少女の条件
1ページ/1ページ


朝、清々しいくらいにスッキリと目が覚めた。おお、なんか今日は良いことありそうな気がする。そんなことを思いながら外の空気を吸おうと窓を開けた。

……前言撤回します。全然清々しくも良いことありそうな気もしません。


「………」

「…よお」

「はあ〜…」

「って、会って早々溜め息ってなんだ!」


何たって、カーテン開けた瞬間に、コイツの姿を見てしまったから。


「…なんでまた来たの」

「そりゃお前を俺の女にしに来」

「帰れ」


バンッ!と勢いよく窓を閉め、ついでにカーテンを閉めた。私は何も見なかった。そう、全ては夢だ夢なんだ!だから窓をドンドン叩いてる音が聞こえるのも夢なんだ!


「あーけーろー!」


…何も聞こえません。

大体にしてなんで来たの?アイツ…あ〜、インプモンだっけ?いきなり小さいのが現れたかと思えば「俺の女になれ」だのふざけたことをぬかしたから最高の笑顔で「断る」とバッサリ言い捨てた。しかしコイツはしつこく何度も来るから、足が出て蹴り飛ばしていたりする。

大体にしてコイツはなんなんだ?犬でもなけりゃ猫でも鳥でもない。姿を見れば悪魔のようにも見えなくもない。

確かアイツ、デジモンとか言ってたが、よく分からなかった。友人に聞けば、デジモンとは日本では有名な存在らしい。え、私知らないんですけど。しかもデジモンの存在は既に認められていると言うではないか。

しかし、そのデジモンがなぜ私に「俺の女になれ」なんて言ってくるんだ?しかも何回も!これで何回目だよ!

尚も窓をドンドン叩いてくるインプモン。ああくそっ…いい加減にしろよ。


「………」

「やっと開けやがったなー」


諦めた、と言うよりうるさくて文句を言ってやろうとカーテンを開けたらアイツは窓を叩くのを止めた。はぁ、と溜め息を吐いて窓を開けた。


「あのさぁ、いい加減に―――」

「俺の女になれ!」

「………」


話を聞けやコイツ。イラッと来たぞイラッと。今日は足じゃなく手が出そうだった。


「…アンタ、なんなの?」

「インプモンだ」

「んなこと聞いてないっつーの。なんで毎回そんなこと言いに来てんの?」

「…?そりゃ…お前を好きになったからに決まってるだろ」


…好き?コイツが私を好き?…おかしいだろ。大体にして私は人間で、コイツはデジモンだ。一緒にいる、ましてや恋人だなんておかしいだろ。

友人に「デジモンと人間が一緒にいることはおかしくないよ」と言われた。事実、デジモンと一緒にいる人間は日本に何人もいるらしい。まあ、一緒にいることは認めよう。

だが、恋人はどうだろうか。それには友人も悩んでいたし、私も悩む。異種同士の恋人?デジモンと人間?…やっぱりおかしいよ。私はそうしか考えられなかった。しかし友人は、悩んだ結果こう言ったのだ。


『好きなら好きでいいんじゃないかな?確かに名前の言う通りおかしいのかもしれない。でもさ…好きになったら止まらないじゃん?』


好きなら好きでいい…好きになったら止まらない、か…。私には分からない。好きな人ができたことがないからと言えばその通りだ。でも…。


「……んで…」

「あ?」

「なんで私を好きになったの?」


私は初めてインプモンと会うまで、コイツの存在を知らなかった。だから、好きになることなんて不可能だったんだ。なのに、コイツは私を知っていた。


「どうして…」

「………だ…」

「…え?なんて言ったの?」

「……に…だ…」

「…もうっ、はっきり言って!」

「お、お前の笑顔に惚れたんだっ!!」

「………」

「………」


……なんて言いましたコイツ?顔を真っ赤にしているこの小さい悪魔、私の笑顔に惚れたとか言いましたか…?いやいや待て待てどういうことだ。


「お、お前が前に、ちいせぇガキが転んだ時にだ…」

「……あ〜…」


そういや、そんなことがあったな…。いつだったかな、コイツと会う何日か前の日に、友人と歩いてたら目の前で小さい子供が転んだんだよね。ここでスルーする勇気はなかったし、転んだ子供に駆け寄ったんだ。


『大丈夫?』

『うっ、ふぇっ…』


あ、ヤバイ泣きそうだ。こういうときどうしたらいいかな…!?あ、これか!?


『い、痛いの痛いの隣のお姉さんにとんでけー!』

『え、あたし!?え、あ、い、いたたたー!』


友人に無理矢理振ったら、頭に軽く手を沿えて痛がってる振りをしてくれた。ありがとう!それを見てきょとんとしている子供をヒョイッと脇の下に手を入れて立たせて、服に付いた土を払ってやった。


『ほ〜ら、もう痛くないよ〜。泣いちゃったら、可愛い顔が台無しだよ〜?』

『ぅっ…な、泣かないもん…』

『よしよし、よく我慢できたね!そんなえらい子には、飴ちゃんをあげよう!』

泣かないことにホッとして、頭を撫でてあげた。ポケットに飴が入ってたことを思い出して子供にあげると、パッと笑顔になってとても嬉しそうだ。


『ありがとうお姉ちゃん!』

『次は転ばないように気を付けるんだよ?』

『うん!』

『よしっ!』


子供の元気のいい返事が返ってきた。泣かれるかと思ったときはヒヤヒヤしたが、今はすごくいい笑顔で釣られてこっちも笑顔になってしまう。子供は好きだな。危なっかしいけど、単純で純粋で、素直で可愛い。


『ばいばいお姉ちゃーん!』

『ばいばーい』


ちっちゃな背中を見送って、そのあとまた友人と歩いて帰ったんだよね。……ってまさか、その事を知ってるってことは近くに居たってこと?


「その時見た笑顔が忘れられなくて…それで俺はお前を!」

「あーわかったわかった!だからそれ以上言うな!」


てか私、あのときかなり必死だったんだよ?子供が泣くって思って咄嗟に「痛いの痛いのとんでけー!」ってやったけど…ちょっと恥ずかしかったんだよな!そのあと友人にも笑われたし。あー!思い出しただけでも恥ずかしい!


「はぁ…でもさぁ、アンタはデジモンで、私は人間だよ?」

「分かってる…けどそれでもいいんだ!」

「はぁ…」


こりゃあ、何を言っても無駄だな。まぁ…好きになってくれるのは嬉しいけど、恋人になるのはな…。うむ…そうだな。


「…付き合うこと、考えてやってもいい」

「じゃあ!」

「ただし条件がある」

「条件…?なんだ条件って」


よし、乗ってきた。私はインプモンの前に一本の指を立てた。


「一つ、私より身上が高いこと。二つ、私より断然強いこと。そして三つ、生涯愛し続けること」


ドドンッ!と言う効果音でも出そうな勢いで言い切った。目の前のインプモンは、ぽかんとした顔をしている。ふっ、どうだ無理だろ。


「…それで…考えてくれるのか?」

「…?まぁ、考える位はな」

「……よしっ、分かった!」

「は…?」


何が分かったのよ?と言う前にインプモンはビシッと私に指差して、そして、不敵な笑顔を浮かべてこういい放ったのだ。


「待ってろ!その条件、絶対クリアして、またここに来てやるからな!」


そう言って姿を消したインプモンを私はぽかんとした顔で見送ったのだ。しかし本当にその条件満たして来るのかな?今だって私より断然小さいし、蹴っちゃえばすぐ吹っ飛ぶくらい弱い。


「…まっ、期待は全くしないでやるから…頑張りな、インプモン」


その声がアイツに届いたから分からないが、私は無意識にアイツの姿を脳裏に浮かべて、笑っていた。




小さい悪魔少女の条件


(アンタの負けか、私の勝ちか)

(さぁ…)

(条件を満たして、また私の前に現れてみなよ)





.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ