TAXMAN

□仕事放棄は、駄目ですか?
1ページ/2ページ



「ありがとーっ!!!!」






会場に響く、


亮の最後のシャウト。





ベースの、ギターの、ドラムの余韻が


徐々に小さくなり、消える。




鳴り止まない


拍手と歓声の中



彼らが、



全てを出し切った瞬間だった。








「…す、ごい」






何度見ても慣れない、この熱気。





呆然とステージ袖から眺めていれば



その場の雰囲気が、一気に慌ただしくなった。






いけない、いけない。





やりきった彼らを


笑顔で迎えて、支えてあげるのが





スタッフとしての、



マネージャーとしての仕事でしょーがっ!!!








「お疲れさ…」




「あー、名前ー」






酸欠のせいか、フラフラの状態の卓が




私の身体に倒れこんできた。






「卓、ちょ…あ、タオル」



「ん、さんきゅ」



「あ、みんなも…タオル、ちょっと卓っ!
この体勢すっごく動きづらいんだけど!亮なんか死にかけだから!!水あげないと!!!」



「俺は植物かい」






吐き捨てるように呟いた亮とは反対に、


これまた汗だくの順彦は声をあげて笑い出した。







「ほら、卓
休むんなら楽屋のソファでね?」




ここじゃ騒がしいでしょ。



そう言った途端に聞こえてくる


亮の怒声と順彦の笑い声。






「少しくらい甘えたっていいだろー」



「甘えるって…一応マネージャーなんで、やることいっぱいあんだけど」




「それならさ、」






肩越しに喋っていた卓の顔が



気付けばすぐ目の前にあった。







「メンバーを癒すのも、マネージャーの仕事じゃないの?」



「…今じゃなくても、いいでしょ」





ふーん、と目を細めた卓は


急に身体を離し




やけに声を大きくして言った。






「マネージャーが全然仕事してくれませーん
疲れたのに労わってくれないとか、マネージャーとしてどうな…」



「わ、わかったから!!私クビになっちゃうから止めてよっ!!!」






…私は一生忘れないだろう。






この時の



卓のしたり顔を。






「はいはい。お疲れ様、卓」



「はぁ、もっと早く素直になろうな?」



「うっさいなー…」






でも何故か





湿ったシャツに手を回すのも




ほったらかしにして文句を言うメンバーを横目で見るのも




悪くないと思ってしまう。







「名前、」



「ん、まだ何かあるの?」






名前を呼ばれて顔を上げれば、



すぐに視界はぼやけて




頬に、卓の髪の毛が触れた。







ちゅ、と短いリップ音が



騒がしい空間の中に響く。









「元気100倍☆TAXMAN」







アンパンチを食らわせたい気もしたけど、





その笑顔が



あまりにも輝いていたから





今日は我慢してあげよう。









(…キスが、しょっぱい)





NEXT→おまけ
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ