ガラス越しの空
□1.私と彼の出逢い
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「…咲樹?」
しばらくじーっと、その天使のような寝顔を見ていたから、寝ていながらも視線を感じたのかもしれない。
壮介は眠そうに目を覚ました。
「やっと起きた。」
私が言うと、彼は寝ぼけたまま笑う。
「もう一回したい?」
朝からとんでもないことを言い出すので、私はキッパリ否定を示さねばと大きく首を振った。
「なんだ。違うのか。」
壮介は寝ぼけたような可愛い顔をして、そんな事をいう。
寝顔でも天使だなんて思った私の事を、本当の天使がもしも存在するのなら、『失礼な。』って怒ってるところだろう。
そんな私の心境もしらずに壮介は言う。
「いくらなんでも昨日はやりすぎたもんな。」
確かに昨日は…
「いいから。昨日の話は。」
「何で?」
「あんたには恥じらいってものが理解できないの?」
私の反撃に、壮介は可笑しそうに笑った。
「昨晩の咲樹には、恥じらいのかけらも見られなかったけど。」
だから!今恥じらってるんでしょうが!!
まったくこの男は!
「もう黙って。」
「はいはい。咲樹が言いたいことはわかってる。」
私と違って寝起きの良い壮介は、体を起こすとグーッと伸びをした。
そして、その辺にある服を適当に着始める。
「待ってて。 」
壮介の言葉に私は頷く。
そして彼は寝室から出て行った。
私は幸福な気分で温かいシーツにくるまり、壮介が戻って来るのを待っている。
そして彼が戻ってくると、片手には透明のきれいなグラスを持っている。
いつものお決まり。
彼はすっかり慣れた様子で、それを私に差し出した。
「はい。」
「ありがと。」
薄い透明のグラスの中には、壮介の作ったレモン水が入っている。
私はここで、このグラスで飲むレモン水が大好きだった。
それをごくごくと飲み干すと、体の中が全部さっぱりとキレイになる気がするのだ。
壮介の実家の庭でとれたというレモンは、そこいらへんで売っているレモンみたいに酸っぱ過ぎないし、だいたい香りが違う。
そしてこの、私に丁度いい大きさの無色透明のグラスもとても気にいっていた。
このグラスはガラス工房で働く壮介自身が造ったものだ。
初めて壮介の職業を聞いたとき、なんだか妙に納得したのを覚えている。
芸術家みたいだ、と言ったら、普通の工場勤めと変わらないよ、と壮介は笑っていた。
…彼の造るものは皆、透明で(ガラスだから当然か。)
繊細でとても綺麗だ。
そして少し温もりがある気がする。
素人目線だから、この感想が全く的外れな物なのかもしれないけども。
彼が職人としてどれほどのものなのかは全くわからないけども。
彼がとてもその職業を愛していて、一生懸命なのはわかる。
不似合いなゴツい手は、この仕事でつくられたものだ。
だから彼に不似合いなこの手のことも、私は少し気にいっている。