ガラス越しの空

□1.私と彼の出逢い
2ページ/8ページ


「…咲樹?」

しばらくじーっと、その天使のような寝顔を見ていたから、寝ていながらも視線を感じたのかもしれない。

壮介は眠そうに目を覚ました。

「やっと起きた。」

私が言うと、彼は寝ぼけたまま笑う。

「もう一回したい?」

朝からとんでもないことを言い出すので、私はキッパリ否定を示さねばと大きく首を振った。

「なんだ。違うのか。」

壮介は寝ぼけたような可愛い顔をして、そんな事をいう。

寝顔でも天使だなんて思った私の事を、本当の天使がもしも存在するのなら、『失礼な。』って怒ってるところだろう。

そんな私の心境もしらずに壮介は言う。

「いくらなんでも昨日はやりすぎたもんな。」

確かに昨日は…

「いいから。昨日の話は。」

「何で?」

「あんたには恥じらいってものが理解できないの?」

私の反撃に、壮介は可笑しそうに笑った。

「昨晩の咲樹には、恥じらいのかけらも見られなかったけど。」

だから!今恥じらってるんでしょうが!!

まったくこの男は!

「もう黙って。」

「はいはい。咲樹が言いたいことはわかってる。」

私と違って寝起きの良い壮介は、体を起こすとグーッと伸びをした。

そして、その辺にある服を適当に着始める。

「待ってて。 」

壮介の言葉に私は頷く。

そして彼は寝室から出て行った。

私は幸福な気分で温かいシーツにくるまり、壮介が戻って来るのを待っている。

そして彼が戻ってくると、片手には透明のきれいなグラスを持っている。

いつものお決まり。

彼はすっかり慣れた様子で、それを私に差し出した。

「はい。」

「ありがと。」

薄い透明のグラスの中には、壮介の作ったレモン水が入っている。

私はここで、このグラスで飲むレモン水が大好きだった。

それをごくごくと飲み干すと、体の中が全部さっぱりとキレイになる気がするのだ。

壮介の実家の庭でとれたというレモンは、そこいらへんで売っているレモンみたいに酸っぱ過ぎないし、だいたい香りが違う。

そしてこの、私に丁度いい大きさの無色透明のグラスもとても気にいっていた。

このグラスはガラス工房で働く壮介自身が造ったものだ。

初めて壮介の職業を聞いたとき、なんだか妙に納得したのを覚えている。

芸術家みたいだ、と言ったら、普通の工場勤めと変わらないよ、と壮介は笑っていた。



…彼の造るものは皆、透明で(ガラスだから当然か。)
繊細でとても綺麗だ。

そして少し温もりがある気がする。

素人目線だから、この感想が全く的外れな物なのかもしれないけども。

彼が職人としてどれほどのものなのかは全くわからないけども。

彼がとてもその職業を愛していて、一生懸命なのはわかる。

不似合いなゴツい手は、この仕事でつくられたものだ。

だから彼に不似合いなこの手のことも、私は少し気にいっている。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ