ガラス越しの空
□3.山口涼
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壮介と私がはじめて出逢ったのは、小学生のころだ。
壮介は私の通う小学生に転校してきたのだ。
…彼には、両親がいなかった。
それまで施設で暮らしていた彼は、養父母に引き取られて、私の住む街へやってきたのだ。
その頃の壮介は背が低くて、すごく細っこかった。
髪の毛が短くて、目がキョロっと大きいのが特徴的だった。
違う学校のジャージを着て、みんなと違う上履きを履いて、
違和感があったのは初日だけ。
次の日にはクラスの男子とすっかり仲良くなって、校庭でサッカーしてたっけ。
背の順で並んだら、彼は一番前だった。
私より背が低かった壮介。
人の成長というのはわからないものである。
壮介は今や殆どの人が彼を見上げるくらいの背丈だっていうのに。
しみじみと壮介の姿を見ると、立派に成長したなぁ。
なんて、まるで彼の親のように、私は思う。
壮介はすごくいい子だった。
明るくて、みんなに優しかった。
滅多な事では怒らないし、つまらない事でくよくよしたりもしない。
あっけらかんとして、悩みとは無縁みたいな顔をいつもしていた。…
私は何故だか、壮介のことがあまり好きじゃなかった。
きっと嫉妬していたのだ。
壮介が何もかもうまくやってるように見えたから。
家が近くだったから、私と壮介はよく一緒に帰った。
不本意だったのだが、担任の先生に「よろしくね。」と頼まれれば私も断れなかったのだ。
壮介の家には私の両親よりもずっと歳上のおじさん、おばさんがいて、その人たちが壮介の養父母と呼ばれる人達だった。
「壮介くんにはなんでパパとママがいないの?」
子供故の無神経さで、そんなことを尋ねた時があった。
だって、壮介は父親と母親がいなくても、ほかのみんなよりずっと恵まれているような顔をしていたから、…だから、壮介がそのことで悩んでいるなんて夢にも思わなかったのだ。
「知らない。産まれてすぐの赤ちゃんの時、俺は施設の前に捨てられてたんだ。」
壮介は歩きながら、まるで他人事の用に言った。
「どんなふうに?」
「段ボールの中に毛布と一緒に入ってた。」
まるで捨て犬や捨て猫のようだ。
「覚えてるの?」
そんな筈ないと思いながらも、私は尋ねる。
「覚えてるよ。」
壮介は少し自慢げに言った。
「え?」
「…毛布があったかかった。だから俺は泣かなかったんだ。」
壮介はきっと、普通の子供とは違うんだ。
何かが壊れているか、欠落していて、…だから捨てられてしまったのだ。
当時私はそんなふうに考えてた。
壮介は『可哀想な子』。
そう思うと、私の自尊心は満たされて、壮介に優しくなれた。
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