小説 普通の。

□昨日の小テストの最高点は83点です。
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午前11時35分。
突っ伏した生徒たちの紺色のニットと白いシャツ、黒髪のコントラストが色々な意味で絶景だ。
女の子ならではの凝ったデザインの筆箱がより映える。
もうシャーペンの動く音はしない。それどころか寝息すら聞こえてきそうだ。


「試験終了の5分前になりました。名前の書き忘れがないか確認して下さい。」


どこからか、もう何回もしたよと声がした。
秒針が12を回った。
あと1分。……カウントダウン開始。
まもなくチャイムという名の救いのベルが鳴り響いた。
私立武蔵野嵐女学園、前期中間テストが終了した。
生徒たちは近くに教師がいるのもかまわずカラオケに行くやら渋谷に行くやら騒いでいる。
教師たちはこれから見なくてはならないテストの束を逃げるかのように封筒にしまいこみため息をついた。
各教室から職員室への近くて遠い廊下を、やたらと分厚く感じるそれを抱え
1人でとぼとぼ歩く姿は生徒にはどうでも良いことなのだ。

池袋のど真ん中にあるこの学校、今頃近くにある
多くのカラオケやサンシャインシティは
大量の学生がうようよしているんだろう。
午前中に終礼も終わったので8時まで残る生徒はいなかった。


静まりかえった一室。
コポコポと酸素ボンベの音と
採点中独特のペンのリズム音が響いた。

今回の期末はいい感じだ、俺が作ったテストだし。
そう思いきや悪いのもいる。せっかく小テストのまんまにしたのになぁ。
じゃないと再試何人でんだ?10や20じゃすまないだろうなぁ、
小テストの分も入れてやろうかな…

武蔵野嵐学園の教師である近藤慎也は
頭の中を整理しながらそんな事を考えている。


「ねぇ理科室になんかいる!」
「中間の採点でしょ?」
「ちょっと覗いてみてみる」
「怒られるよ〜」

いつもならここで

「あっ近藤だよ!」
「マジ!?」
「ヤバー!!」


なんてのが聞こえてくるのが定石だ。
声をかけられることなく騒がれるのは
クラスを担当しておらず、顔が良いことを
言わずとも示している。


「こっちが採点地獄とも知らないで…。べつにいいんだけどね…」
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