short story

□"好き"のお味はいかが?
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今日は

恋人たちが

それぞれの思いを


交換する日。


バレンタインデーだ。

看板やテレビ、

お店にも

"ハッピーバレンタイン♪"

とともに
可愛い飾り付けも添えていた。


_『涼ちゃん、…どうぞ…//』

可愛くラッピングされた小さな箱を、今は彼氏である黄瀬涼太。

通称:涼ちゃん

に渡す。


「わあ〜♪やっぱ妃芽からもらったのが一番嬉しいッス!」


と子供のように無邪気に微笑む


『お口に合うか、わからないけど…』


と言って


えへと舌をペロリと出す。


「そんなこと無いッスよ!妃芽の気持ちがこもってるんスから…」

『涼ちゃん…』


「妃芽…」


チュ…





__ってなるはずだったのにい!


「妄想にフケてる場合じゃないよね?妃芽…」

呆れた顔で見つめてくる美桜に私は

『…すみません。』


と静かに謝る。


そうだ妄想してる場合じゃない!


「ホントにこれでいく気なの?」


『え…。やっぱダメかな…?』


「魚臭い。」

『う…』


そうなんだ。


こんな日に限って

電子レンジが壊れてしまったのだ。

原因不明。

それで仕方なく私は、魚を焼く所で


"チョコレートクッキー♪"

を作ったんだけど…


美桜のいう通り


魚臭くなってしまった。

まあ、普通に考えてそうなんだけど。


『細かいことは気にすんな♪
それわかちこわかちこ〜♪』


「…本人がこれなんだから、笑
まあいいんじゃない?私があげるんじゃないし。」


えらく"私じゃないし"って強調するじゃない!


時計をふと見ると


約束の時間が来てしまった。

「そろそろみたいだから、ま、頑張りなよ?笑 じゃーね〜」


と言ってそそくさと逃げるように帰った。


『仕方ない。これでいくしかないな…』

そう覚悟を決めたと同時に

あくまのインターホンが鳴る


ピンポーン


今年のバレンタインは私の家で行われることになった。

そもそも私は独り暮らしだから、まあ大丈夫なんだけど

こういう、フインキはあれがあってもおかしくない!


そう心構えて


前日に下着屋さんによって

少しセクシーなやつ買ったのに


電子レンジめ!


フインキぶち壊しだよ…


絶対…



少し半泣きになりながら


鍵を開ける。

「妃芽っち〜♪お邪魔しまーす!」

『…ど、どうぞ…』

涼ちゃんは椅子に腰かけると

「なんか良いッスね!この部屋!」


と部屋まで評価してくれる。

もうすぐ

私のクッキーも

評価するんだよ。笑


どうするんだろ、涼ちゃんだったら、


そう思いながら


ホットレモンティーを淹れて


机に置く。

『どうぞ。』


「どーも♪…さっきからどうぞしか言って無いっすけど、なんかあったんスか?」


『ッあえ?!や、なんも無いッスよ!』


「ははッ…そうッスか?笑」

そんなさりげない笑うしぐさも

かっこいいです。


『あ、そういえば、バレンタインなんだから涼ちゃん今年もいっぱいもらったんじゃなーい?』

「ああ、もらったッスけど、笠松先輩が欲しいって言ったから全部あげたんスよ♪」

か、笠松先輩…


そんなにチョコほしいのか

私があげるよ?

魚の臭いつき。

『そ、そうなんだ…』


あははと目をそらして笑うと

「妃芽のが…やっぱ一番スからね…//」


や、やばいっ!

出しづらい///


ああ!もういいや!

魚にゃんて、

魚なんて!


心の中でぶつぶつと一人言を言いながら


小さな箱を取りだし


涼ちゃんに近づく。

『涼ちゃん…これ…』


小さな箱を渡す。
「食べて良いッスか?!」

と嬉しそうに微笑む涼ちゃんに

情けなくてホントに泣きたく鳴るのを堪えて


『う、うん…』


と言う。


ああ、だめ。


"お口に合うか、わからないけど…"

って!

言いたかったよ!

でも今言っても、

本当に合わないから、

合わないからッ!!!!

はあ、とため息を、ついて

目の前にあった


小さなチョコレートを

口に放り込む。

余り物か。



こっちの方が断然おいしい。

『どーですか?私の気持ちは伝わったかな?不味かった?』

目もあわせずに聞くと


ぐいと腕を引き寄せられて


口を奪われてしまった。


チョコレートの味と


ほんのり魚の風味がしたが

結局のところ、

なんの味かと言われると


はっきりした味じゃないからわからない。

好きって気持ちも


曖昧で


ひとつに表せないんだ。


このクッキーみたいに。


好きって


こんなものなのかな?


唇が離されると


涼ちゃんは

優しく微笑むと

「ごちそーさまッス♪」

と言ったから


私も微笑んで

『お粗末さまでした♪』


と言って、


また、唇を重ねた。


次はちゃんと


チョコレートの味がした。

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