小説

□声が聞きたい
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「おれさまのおとうと、はやくめざめろ。おれさま、ずっと、まっているぞ」
毎日聞こえていたその声が、聞こえなくなったのはいつからだっただろうか。

体は完成し、意識も目覚めた今、全ての回路が繋がりさえすれば俺はこの世に生を受けることになる。
そんな俺の誕生を今か今かと待ちわびていた声。その声が聞こえなくなった。
どれだけ待っていても聞こえてくることのない声に不安を覚える。
今までの声は幻聴だったのだろうか。いや、それはありえない。今でも俺のメモリーにはあの声が残っている。

舌足らずで幼い声で、それでも芯を持った声。その声以外の情報を持たない俺は、声の主と会う事を一番の楽しみにしていた。声以外の情報がないというのもおかしな話ではあるが。
その声が聞こえない、それがどれだけ寂しいものだっただろうか。

……?寂しい?
これが心というものなのだろうか。本来ならば必要のないもののはずだ。
俺は戦闘用に作られた。それは既に組み込まれているデータからもわかることだ。
戦闘用に心など必要ない。目的を果たすことができればいいのだから。ならば何故、博士は心など与えたのだろうか。
それはきっと、今考えたところで答えは出ないのだろう。



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