4バカシリーズ

□バカ、嫌われる
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予想していた。
こうなることは、さっきの夏焼先輩とのやり取りでわかっていたんだ。



『鈴木さん、ちょっといい?裏庭まで付き合ってくれないかな』



放課後になってすぐ机を囲まれた。
相手は三人。
それは脅迫と呼べるんだと教えてあげたかったけど、事の原因である人が迎えに来るらしいのでなるべく手間は省きたい。



嫌いな人に勝手に取り付けられたものだとしても、約束は約束だ。
そして、約束は守るから約束なのだ。



―――――――――――――



「で、どういうこと?」



「なにが?」



この人たち、主語って知ってるのかな。
なにが聞きたいのかわからない。
見たままの状況なのにわざわざこうして聞くって余程勉強熱心らしい。
ただし『夏焼先輩に対して』の勉強なんて人生の役に立ちませんけど。



「とぼけないでよ!夏焼先輩のことだよ!」



「夏焼先輩の、なに?あの人についてはあなた達の方が知ってるんじゃないの?」



あの人のことなんて、噂の姿しか知らない。
人の気持ちを弄んで付け上がってるような人。
噂なんて信用できない私は、それを信じていたわけじゃないけれど、たまたまそんな場面に出くわしてからは疑いようもなく最低な人間認定をした。

だけどなぜか、あの告白を断ることは出来なかった。
自分でも理由はわからない。
疑ってはいけないと思っても、あの言葉が本当だなんて保証はない。
でも、あの人の目は、そんなこと関係なしに私を真っ直ぐ見ていて、私は本能的に確信したんだ。

この人は悪い人ではない、と。



「ちょっと・・・マジでムカつくんだけど・・・!」



「聞きたいのはそういうことじゃねぇんだよ!」



違うことを考えてるうちに更に怒らせてしまったみたいだ。
まぁいい、私の一言でこれはすぐ終わる。
この人達の醜い姿が大好きな夏焼先輩に見つかる前に、終止符でも打ってあげよう。



「別に、付き合っ「なにしてんの」」



私の言葉を遮ったのは、事の原因を作った人で、この人達が一番この場面を見られたくない人。
元からあんまり見たことはないけど、たぶん普段しないような冷たい表情をしている。
だって、この人達の顔がどんどん青ざめていて、言い訳すら出来ないみたいで。



「・・・・・・ごめん、愛理ちゃん、行こう」



ずかずかとこっちに向かってきた夏焼先輩は、三人に見向きもしないまま私の手を取って歩き出す。
引っ張られるがままに付いていってると、黙っている三人にとどめを差すように夏焼先輩が口を開いた。



「あたしのこと好きとか付き合ってとか言ってくるのは構わない。悪いように言ったり変な噂流すのも構わない。だけど、あたしの友達とか関係ない人を傷つけるのは止めてくれるかな、それは、許せないから」



振り向かないでそう言い放った夏焼先輩は、どんな表情をしてたんだろう。



―――――――――――――



「ごめん・・・本当、ごめん・・・」



あたしの教室に戻ってからずっと謝り続けてる夏焼先輩。
さっきの表情なんて感じさせないくらい情けない表情で。
私も負けないくらい困ったような表情はしてるんだろうけど。



「なにもされてませんし、大丈夫ですって」



「あたしがあんなとこででかい声で言ったから・・・あと小春・・・・・・ごめん・・・」



「もう、謝らないでくださいよ・・・」



こうして見ていると色恋沙汰を除けば悪い人ではなさそうで、というか、そういえば夏焼先輩の好きなところを話している人達はみんな『優しい』というのをあげていたような覚えがある。
だからと言って、普段夏焼先輩がしているようなことを許して良いわけではないけど。
でも、なんであんなことを繰り返してるのかという理由くらい、聞きたくなったりはする。



「うん・・・あー・・・・・・これからどっか遊びに誘おうと思ってたんだけど・・・・・・そんな気分じゃないよね。帰ろっか、家まで送ってくよ」



そう言って微笑んだ夏焼先輩からは、実際私はその現場を見てるのに関わらず、そんな事をしてる様な人に見えない。
だから、やっぱり聞きたくなった。



「夏焼先輩は・・・・・・なんでたくさんの人と関係を持つんですか?」



「え?二股とかはしたことないよ?」



「いえ、そういうことじゃなくて」



私の言葉の意図がわかったらしく、悩みながら話し出す夏焼先輩。



「あー・・・・・・んー・・・特に理由とかは・・・・・・付き合ってって、言われたから、かなぁ・・・」



「好きでもないのに付き合うんですか?」



「・・・・・・好きに、なるかもしれないから」



「だから夏焼先輩も好きでもない相手に好きって?」



「あ、そっか・・・見られてたんだ・・・・・・それは、好きって言ってればあたしも好きになるかもしれないし・・・」



「それって相手に好きと言われたから夏焼先輩もそうなるために言ったんですよね?」



「まぁ・・・そう、だね」



「・・・・・・じゃあ、私に告白したのは?」



「っ・・・・・・えっと・・・」



「私は夏焼先輩のこと嫌いだって言ったのに、本当に私のことが好きになって、それで告白したんですか?」



「・・・・・・・・・その・・・」



「・・・・・・」



「・・・・・・・・・」



「・・・帰ります、さようなら」



やっぱりこの人、最低だ。



end

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