4バカシリーズ
□悔しいバカ
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本当に面白いことになってきた。
まさか夜の公園で、しかも二人っきりでいたなんて。
昼休みからの10時間、何があったのか根掘り葉掘り聞かないと小春の気は済みそうもない。
「で、なにがあってこんな短時間で仲良くなったんだ。やったのか?もうやっちゃったのか?」
「だーかーら!違うってば!別に特になんもない!」
「そんなわけないでしょ。昨日、みやの様子がおかしかったのなんて小春知ってるよ。明らかに鈴木愛理とは『訳ありです』って空気出してた誤魔化すなバカなんだから」
「・・・・・・バカ関係ないっつの・・・」
そう言ってガシガシと頭を掻いて、諦めたようにため息をつくみや。
小春の目を誤魔化そうなんて百万年早いんだよ。
「・・・・・・嫌いって言われたんだ」
「・・・・・・・・・・・・は?」
嬉しそうに言ったもんだから、聞き間違えかと思った。
だけど何回思い返しても絶対間違ってない、そんな耳悪くなった覚えもない。
「2週間くらい前にさ、あたしがその時の彼女にフラれて、次の彼女候補に付き合おうって言ったところ、見られた時」
そう言いながらブランコに座るみや。
それに釣られて小春も自転車を止めてみやの隣のブランコに座る。
「嫌いって、あんな真正面から言われたのって初めてで、最初本当落ち込んでさ、昨日も愛理ちゃんに告白するってなった時は嫌だった。で、今日の放課後、また嫌われたみたいで一人で帰られちゃったんだけど、さっき会ったとき普通に話して、笑ってくれたんだ」
みやが笑った。
それはとても、嬉しそうに。
「その時、嫌いとか言われたのどうでも良くなってさ、思わず花火誘っちゃった。しかもそこでも思いの外楽しんでくれてさぁ」
正直、みやの気持ちは全くわからなかった。
小春だったら嫌いだなんて真正面から言われた奴に話しかけようとも関わろうとも思わない。
みやみたいに罰ゲームで関わらなきゃいけない状況になったとしても、こんな、みやみたいにはならないだろう。
だってこれは、明らかに。
「ちょっと、興味あるかも」
好き、だとは言ってない。
だけど本人が気付いてないだけでもう既に好きになってる可能性はある。
気付かないのも無理はない。
こいつは自分から人を好きになったことなんてないんだから。
「今まで会ったことないタイプなんだよね。堅物で真面目で優秀で、でも、たぶん愛理ちゃんは人付き合いが下手くそなだけなんだよ。本当はもっと違う、いや、違うっていうか・・・・・・柔らかい部分がいっぱいあると思うんだ。そこがちょっと垣間見えて、なんでかもっと全部見たいって思った」
聞いてないのにペラペラと話し出す。
なんだ、なんだ、こんな簡単に。
こんな簡単にみやを惹き付けたのかあの鈴木愛理は。
小春も、ちぃも、きっかも、惹き付けられた側なのに。
「・・・小春?どうした?」
黙った小春に気付いて、心配そうに声をかけてくるみや。
「・・・・・・いや、なんも」
嫌な訳じゃない。
みやが成長したみたいで嬉しい気持ちもある。
ただ、小春にも出来なかったことを簡単に成し遂げられたのが悔しいだけなんだ。
「罰ゲーム達成出来そうで良かったね」
そう言ってブランコから下りる。
なんだかすぐにシャワーを浴びたい気分だった。
「あ・・・えっと、その事、なんだけど・・・」
「んー?」
「この罰ゲームはやめたい」
みやの目は真剣そのもの。
もしかして、もう自分の気持ちわかってるんじゃないかこいつ。
あ、でも、みやはマジで有り得ないくらいの鈍感野郎だった。
「おっけおっけ」
まぁ、みやの好きなようにすればいい。
そう思って軽く承諾すると、みやが驚いたように声をあげた。
「えっ」
「なに」
「いや、そんな簡単におっけーされると思ってなかった・・・」
どうせそんなことだろうと思った。
小春にだってちゃんと考える時があることをこいつわかってないな。
「じゃあダメって言えばいいの?」
「え、それはダメ」
「でしょ、じゃあ小春帰る」
自転車に鍵を差し込みながらそう告げる。
今は良い気持ちで人と接することが出来そうにない。
「うん、じゃ」
「ばいばーい」
「あ、来てくれてありがとね」
「んー」
グッと足に力を込めて勢いよく漕ぎ出す。
誰にも止められないように。
前から向かってくる風がこのもやもやした気持ちを連れ去ってくれればいいのに。
そんなバカみたいなことを思っているとすぐに家に着いた。
「・・・・・・そうだ」
アイツに連絡しとかないと。
みやはたぶん、もう、そうだから。
今は気づいてないとしても、これから絶対鈴木愛理のことが好きということに気付くだろう。
だから、報告しないと。
「もしもし、もも?」
『おー小春ぅ、久しぶりー。なに?どうしたの?』
「みや、好きな人出来たよ」
end