4バカシリーズ

□バカ、バカ、バカ!
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「なんで避けられてんだ…」



「しょうがない、協力してやろう」



「みやのために一皮脱ぐよ!」



「…ちぃちゃん、脱皮するの?」



―――――



『鈴木愛理ー覚悟しろー』



そんな久住先輩の意味のわからない放送から、この意味のわからない鬼ごっこは始まった。



「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」



久住先輩、徳永先輩、吉川先輩に追いかけられてる。
肝心の夏焼先輩の姿は見えない。
別に、追いかけてほしいわけではないけど。

どうせ罰ゲームだった。
今のこの状況だって、意味わかんないけど、どうせ遊んでるだけなんだ。
三人の先輩から逃げる私を監視カメラで見てるくらいしてるんじゃないのか。
つくづく悪趣味な人。

夏焼先輩の私に対する態度が罰ゲームから来るものだと知った日から徹底的に避けた。
一週間ずっと。
なるべく会わないようにして、会ってもすぐ逃げて。
もうそろそろ諦めたんじゃないかと思ったらこれだ。



「勘弁してよ…」



「鈴木愛理発見!!!」



ため息をついたと同時に聞こえてきた大声に走り出す。
徳永先輩だ。
こっちの気も知らずに楽しそうににこにこ笑いながら追いかけてくる。



「なかなか粘るね!もううちちょー疲れたんだけど!」



「じゃっ…追いかける、のっ…やめっ…くださいよっ…!」



「それは出来ない!」



「なんでっ…!」



「みやが大事だから!」



わからない。
わからないよ、私には。
夏焼先輩は、酷い人なんじゃないの?



「あー!疲れた!きっか任せた!」



私を追いかけるのをやめて、その場で座り込む徳永先輩。
それに目を向けてる暇はなかった。
言葉的に、もしかしてというか、それはまぁ、いるわけですよ。



「任された!」



「もっ…またっ…!」



こっちは息切れ切れだというのに。
相手は三人で、追いかける側で、なんていうかもう不利すぎる。

足を止める。
振り返る。
吉川先輩と向き合う。



「あの…吉川先輩は…まだ話が通じると思うんです…」



「……」



「だから、話し合いを」



「無理」



「え?」



即答。
なんだか、いつもの感じと違う。
いつも、と言ってもそんな親しいわけじゃないし、遠くから見てる感じしか知らないのだけど。
それでも、それとはまったく違った。



「あんたはみやと話し合うの」



「だ、だから!それが嫌だから吉川先輩と話し合いたいって!」



「嫌だ。きっかが嫌だ。正直、あんたがみやと話す方が嫌だけど」



「なっ…!い、嫌ならこんなことやめてください!」



「やめたいよ!……でも、みやが大事だから」



そんな苦しそうな顔をして。
なんでそこまでして、夏焼先輩に協力するの?
思うところがあるはずなのに、それを圧し殺してまで。

見ていられなくて、階段を駆けのぼる。



「はぁっ…はぁっ…!」



体力なんてないけど。
捕まりたくなかった。
捕まってしまったら、おそらく私は許してしまう。
酷い人だと思ってるのに、わかってるのに、それでもあの人を前にしたら絶対許してしまう。

それは納得いかないのだ。



「よっ」



階段の下から追いかけて来たのは久住先輩だった。
もう、屋上しかない。
重い扉を開けて入る直前、呼び止められる。



「鈴木愛理!」



「っ…なん、ですか…」



切羽詰まったような声だったから。
思わず足を止める。



「あのさ…本当に、あいつ、悪い奴じゃないんだ…」



久住先輩もいつもと違う。
余裕がなさそうな。
必死に私を説得しようとしてるような。



「不器用ってか、色々下手くそってか……まぁ、バカなんだよ」



そう言ってから出た笑顔は、愛に満ち溢れてるように見えた。

私にはないものを夏焼先輩は持っている。
そのことを三人の先輩に身を持って教えられたみたいだ。
そして、おそらくこれはゲームなんかではなかったし、夏焼先輩もこれを見てるとは思えなかった。

三人の先輩は、普段夏焼先輩には見せない姿を私に見せて、聞かせないような言葉を私に聞かせてくれたような気がしたのだ。



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