時代劇的なものシリーズ(完結)

□気づかない人と穴
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「これがお祭り…!」



いつも一緒にいるりーちゃんも大概お姫様だったけど、今日ほどお姫様を感じたことはなかっただろう。



―――――



「みや!あれなんだろ!」



「梨沙子走るな」



「わー!佐紀!りんご飴あるよ!」



「舞美、迷子になるから手繋いでて」



昨日計画した通り、いや、思ってた以上にすんなりと隣町のお祭りに参加出来ている。
舞美はいいとして、佐紀ちゃんが二つ返事で了承してくれたのが意外だった。
だけど、佐紀ちゃんの顔を見てるとなんだか納得できた。
はしゃいでる舞美を見る佐紀ちゃんの顔がすごく優しいものだったから。


それはさておき。
みやとりーちゃん、佐紀ちゃんと舞美がペアみたいになってる今、ももは一人だ。
孤独感を感じる。
ちょっとジェラシー。



「佐紀!あれ!あれ食べたい!」



「ちょっ、舞美!」



そんなももに一番気づいてくれるはずの佐紀ちゃんも、大型犬のお世話でいっぱいいっぱいのようで。
自分を抑制できずに走り出してしまった舞美を見てため息。
すぐに息を吸い直してももの方をチラッと見て口を開く。



「…頑張って」



その視線はももから、りーちゃんのお世話をやいてるみやに。
ぐっ、と言葉に詰まってからゆっくり頷く。
それを見届けた佐紀ちゃんが舞美を追いかけるために早足になる。



「佐紀ちゃんも!」



言わずにはいられなくて大きく言う。
ギリギリ届いたらしい言葉に、佐紀ちゃんは顔だけ振り返って苦笑を返してくれた。
あっちは慣れたもんだよね、と思いながら視線を佐紀ちゃんからみやにやる。

みやはももの視線には気づかない。



「みや!これやりたい!」



「ヨーヨー釣り?はい」



りーちゃんの要望に応えてお金を出す。
みやは見守るように隣にしゃがみこんで、そしてりーちゃんは他の子がやっていることを見よう見まねでやってみる。
そう上手くはいかない。
みやにお金を催促し、失敗して、また催促して、失敗してを繰り返した後、ようやく取れた。
嬉しそうにはしゃぐりーちゃんと、そんなりーちゃんの頭を優しく撫でるみや。

唐突に思った。
ももの居場所がない、と。



「今度はあっち!」



自力で取ったヨーヨーを振り回しながらりーちゃんが駆け出す。
それを見送りながら、呆れた様子でりーちゃんの後を追いかけるであろうみやを思うと視界が歪んだ。

せっかく楽しいお祭りなのに。
せっかくのみやの休みなのに。
ももはいったい、何を楽しめばいいんだろうか。



「もも」



そう思ってたところに、自分に向けられたみやの声。
りーちゃんが向かった方向を見るけど、一人だ。
声の方向に目を向ける。

ちょいちょい、と手招きされた。
ちょっと戸惑ってから歩き出してみやの隣にしゃがみこむ。
すると、みやがヨーヨー釣りを始めた。



「…りーちゃん、一人で行っちゃったよ?」



「うん。どれがいい?」



「へ?」



りーちゃんのことは全く気にしてないみたいで、ヨーヨーを指さしてそう聞いてくる。
なに考えてるかわかんなくてハテナを浮かべたまま首を傾げるけど、みやは早く答えろと言うようにもう一度ヨーヨーを指さすだけだ。



「この、桃色の…」



「わかった」



ももの答えにみやは短く返事をすると、他のヨーヨーをどかしながら桃色のヨーヨーに狙いを定める。
ももはりーちゃんが行った方向をまた見た。
もう影もない。
もう一度、いいのかと口を開こうとした時だった。



「梨沙子は強いよ」



桃色のヨーヨーを引き寄せながらみやが言う。
ももの心を見抜いたような言葉に驚いてなにも言えずにいると、みやは続けて口を開いた。



「腕じゃなくて、心がね」



「でもっ」



いつもりーちゃんはみやと一緒で。
みやと一緒じゃないとダメみたいで。
みやに守ってもらえるのはりーちゃんで。



「梨沙子は我が儘なだけだから」



「我が儘…?」



「一人でも大丈夫だけど、あたしを思い通りにしたいんだ。梨沙子はあたしのこと好きだから」



ドキッとした。
みやは気づいてない。
りーちゃんの気持ちには気づかない。
この「好き」も親愛の「好き」だと思ってる。
だけど、そこ以外はその通りなんじゃないかって。



「だから、梨沙子は一人でも大丈夫。っと、取れた。あげる」



そう言って手渡された桃色のヨーヨー。
それを受けとると、みやは少し微笑んで。
お礼を言って照れて俯いたら頭をぽんっと叩かれた。



「ももは梨沙子より弱いと思う」



「…」



「だからあたしが守るよ」



顔をあげる。
真剣というか、無表情というか、みやらしい顔。



「それに…あたし、もものこと……す…す…」



一気に表情が変わった。
なにも誤魔化せないような慌て方。
落ち着きがない。

なんて言おうとしてるのか、わかった。



「すっ……あ、明日…」



「えっ」



「明日言う…!」



みやが早々と立ち上がる。
少し捉えたみやの顔は真っ赤で。
今すぐにでも聞きたかったけど、ももとみやの気持ちが同じだということがわかっただけで、それだけで今は満足だったから。
素直に明日を待とうと思った。



「みや!待ってよー!」



すぐ歩き出してしまったみやを追いかける。
もちろん右手には桃色のヨーヨー。
さっきまでとは一転、今のももは幸せいっぱいだった。
みやとりーちゃんを見ても、もう嫌な気持ちなんて起きない。
そう思えるほどの余裕がある。

だけど、やっぱり早く聞きたい。

明日聞けるだろう言葉を思うと頬が緩む。
ずっと萎まなければいいのになぁ、と思いながら桃色のヨーヨーを大事に抱えた。



桃色のヨーヨーに小さな穴が空いていたことには気づかなかった。



end

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