朝昼夜シリーズ

□覚えがない朝
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・・・・・・あ、まただ。
頭がガンガンする。

体は重くないけど、なんか隣が温かい気がして体を起こして確認した。



「え・・・・・・だれ・・・・・・。」



思ったより掠れてるあたしの声に反応するように、隣で寝てる人達が起きる。

そう、人『達』。
あたしの両脇に一人ずつ寝てるんですけど。

・・・・・・・・・ていうかここどこだ。



「あー、雅が起きたぁ。」



「みやおはよー。」



え、そんな普通に挨拶されても困る。

あたしがポカンとしてるのに気づいたらしく、黒髪の子の方が呆れたような表情をした。



「その様子は・・・・・・覚えて、ない・・・よね?」



「・・・・・・・・・・・・・・・申し訳ないですけど。」



「えー!絵里との熱い一夜も忘れたのぉ?」



・・・・・・・・・・・・あたしは何しちゃった?
あ、あああ熱い一夜って、え・・・マジで?



「亀井さん嘘つかないでください。信じちゃいますから。」



なんだ・・・・・・嘘か、良かった・・・。



「みやはももと熱い夜を過ごしたんだよ。」



「えっ!」



「・・・・・・・・・2人して嘘つかない。」



黒髪の子の言葉に驚いて声をあげると、いつの間にかベッドの近くにいた佐紀がそう言う。

やっぱり嘘だったのか。



「あれ?佐紀ちゃん、まだ7時だよ。」



「うるさいから起きたの。ていうか、確かにみやはあたしのベッドで休ませていいって言ったけど、なんでももと亀井さんがみやと一緒に寝てるの。」



「あ、あはは・・・・・・これには深い事情がありまして・・・・・・。」



不機嫌そうな佐紀。
それを必死になだめるもも(って呼ばれてた子)を見ながら、昨日のことを思い出す。



「あ・・・・・・思い出した。」



「本当?」



今そう聞いてきたのは、確か亀井さん。
『light』のコック班。
そんで佐紀に怒られてるのがもも。
『light』のウェイター班。

意外と覚えてるもんだ。



「はい、おはよーございます亀井さん。」



「本当に覚えてる!」



そんな疑ってたんですか。
まぁ酔っ払ってたからしょうがない。



「あ、みや。」



ももへの説教が終わったらしく、あたしに話しかけてくる佐紀。
亀井さんの方を向いてた体を佐紀の方に向き直ると、信じがたい事を言われた。




「中澤さんが、今日は『light』で働けだって。寝んの早すぎだし『light』のやつらとも早く仲良くなった方がいいだろって。」



・・・・・・・・・マジで?
寝んの早すぎとか本当すいません。
だけど、『light』にはあたしのこと嫌い(多分)な藤本さんが・・・・・・。



「ちゃんとやって来なね。明日からはまた『midnight』だから。」



そう言って、佐紀はもう一つのベッドに戻って眠る体制に入ってしまった。

・・・・・・・・・・・・どうしようか。



「じゃあ出勤しようか、みや。」



「・・・・・・・・・はい。」



頑張るしかない。
ここで上手くやっていくためにも、藤本さんと仲良くならなくちゃ。

そう思ってあたしは、自分の部屋に着替えに行った。





―――――――――――





「とりあえず『light』のみんなに挨拶しに行こっか。まだ会ったことない人いるんでしょ?」



着替えを終えて、早速『light』に向かってる途中にそう聞かれる(亀井さんは先に行ってしまったらしい)。
佐紀から貰ったメモを見てみると、まだ会ったことない人は3人。



「うん、3人くらい。」



「結構会ってるんだね。じゃあまずは『light』の待機室行こう。ウェイター班のみんなはいると思うから。」



一階に下りて『midnight』とは反対の方向に進む。
ちょっと歩くと、『midnight』の待機室と似たようなところが。
ここが『light』の待機室なんだろう。



「みんなおはよー。」



先に待機室に入っていくももに続いて、あたしもちょっと緊張しながら入る。
待機室にいたのは3人。



「あれ?みやだ。」



「本当だ!どうしたの?」



話しかけてきたのは、梨沙子と愛理。
もう一人は多分、中島早貴、通称なっきぃだ(ってメモに書いてあった)。



「みやは今日だけ『light』のウェイター班でーす。」



「よ、よろしく。えと、本当は『midnight』の接客班の夏焼雅です。」



なっきぃに向けて自己紹介。
手を差し出すと、ちょっと狼狽えながら握ってくれた。



「な、中島早貴、『light』のウェイター班です。」



人見知りなのかな。
少し俯いて自己紹介したなっきぃにそう思う。



「なっきぃ。」



「なっ、なに?」



いきなり名前を呼んでみると、ちゃんと顔を上げて返事をしてくれるなっきぃ。

あぁ、やっぱりそうだ。



「顔上げた方が可愛いよ。」



「へっ・・・?え、あ、あ、ありがとっ・・・!」



・・・・・・・・・・・・・・・あれ、あたしまた変なこと言った?
それとも、褒めると顔が赤くなるここのみんながシャイなんだろうか。



「・・・・・・・・・もも、佐紀ちゃんが言ってた意味わかった。」



「・・・・・・・・・・・・あたしも。」



「うん・・・・・・。」



え、なんでみんな冷たい目なの?
あたし悪い?
本当に思ったこと言っただけだし、褒めてるよね?



「じゃあ、みやの本性がわかったところで!次はコック班のみんなのとこ行こ!」



「ちょっ、本性ってなに!」



「行ってらっしゃーい。」



よく状況がわかんないまま待機室から連れ出された。
ももに腕を引っ張られ、愛理と梨沙子に快く送り出され、なっきぃは少し微笑んだだけで。

・・・・・・・・・・・・そろそろ拗ねるぞ。



「はい、とうちゃーく!行きますよー。」



あっという間に厨房に着いてしまって、そんなことは言ってられなくなる。
だってあたしには、藤本さんと仲良くなるという使命が。



「おはよーございまーす。」



「なに、桃子・・・・・・って、なんで雅がいんの?」



・・・・・・・・・さ、早速藤本さん!
その言い方はやっぱりあたしのことが・・・・・・。

い、いや!
頑張れ雅!
負けるな雅!

と、若干キャラ崩壊してから藤本さんの問いに答える。



「えと、今日1日だけ『light』で働くことになってですね・・・・・・。」



「へぇ、じゃあしっかり働いてね。」



なんだかこないだより優しい・・・・・・気がした。
吉澤さんが言ってた通り、本当に人見知りなだけなのかな。
そうだったら嬉しい。



「あ、もしかしてみや?」



そんなことを思ってほんわかしてると、後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには、ひょろっと背が高い茶髪の人が。



「えりかちゃん、おはよー。」



ももの挨拶で気づく。
この人がえりかちゃんか。
あの舞美と同部屋の。



「夏焼雅です、よろしく。」



「よろしく!舞美にキスされたんだって?災難だね。」



ちょっ、忘れてたのに!
また恥ずかしくなって顔が赤くなる。



「事故!あれは事故!」



「そうだよねぇ、事故だね事故。」



そう言いながらニヤニヤしてるえりかちゃん。
・・・・・・・・・この人意地悪だ。



「おはようございます。」



「おはよー真野ちゃん。」



未だににやついてるえりかちゃんに威嚇をしていると、今度は少し落ち着いたような声が聞こえた。

最後の一人、通称真野ちゃんだ。



「『light』コック班の真野恵梨菜です。よろしくお願いしますね。」



メモに書いてあった通り敬語で話しかけられた。
あたしも何人かには敬語だけど、それは少し歳の差がある人だけで。

年下にも敬語を使ってるらしい真野ちゃんに、なんだかちょっと違和感。



「『midnight』の接客班の夏焼雅です。よろしく。」



とりあえず握手をして微笑む。

これで、やっと全員と会えた。

そう思ってホッとしてると、後ろから結構な勢いで何かがぶつかってきた。



「うわっ!!」



「みーやーびっ!絵里に挨拶はないのかよぉ!」



「ないですよっ!さっき会ったじゃないですか!」



あたしに抱きついたまま離れない亀井さんを無理やり剥がそうとするけど、体制が悪いせいで力がよく入らない。

・・・・・・・・・・・・鈍ったな。
三年前だったら簡単に剥がせただろうに。



「はーなーせーっ!!」



「雅生意気だから離さないもんねー。」



「みや!もう浮気!?舞美に言いつけてやる!!」



「どんな設定だよっ!付き合ってないから!!」



「えっ、みや!ももとは遊びだったの!?」



「さっきまで黙ってたのに急に入ってくんな!遊んだ覚えもないし!」



「絵里の他にも女がいるの!?ヒドい!雅のバカ!」



「なんで亀井さんノっちゃってんですか!!」



「あーあ、可哀想な舞美・・・・・・。」



「だから付き合ってないっての!!」



「うるさい!!お前らいつまで騒いでんだよ!!」



さっき厨房を出て行った藤本さんが、バーンと扉を開けて帰ってきた。

ヤバい、怒られる・・・!



「藤本さーん、雅が浮気するんですぅ。」



「ももも遊ばれましたぁー・・・。」



「みやって浮気性なんです・・・・・・。」



・・・・・・・・・・・・おい。
なんで全部あたしのせいみたいになってんの。
ていうかあんたらが勝手に作った設定でしょーが・・・・・・・・・・・・って逃げられた!!

心の中でぼやいてると、いつの間にかこの場にいるのはあたしと藤本さんだけになっていた。
真野ちゃんさえいないし。



「えっと、あの・・・ですね・・・・・・。」



「雅、浮気はよくない。」



藤本さんまで・・・・・・。

一回肩をポンと叩いて厨房を出てしまった藤本さん。


なんであたしはこんなキャラになってしまったんだ、と思いながらもこういうくだらないやりとりは初めてで。



自然と出てしまった笑顔を抑える術はなかった。



end

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