朝昼夜シリーズ

□堪えきれない朝
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「よっちゃん?」



隣のベッドにいるはずの人がいない。
確認として一応声をかけてみるけどやっぱりいない。



「・・・・・・・・またか。」



昨日も一昨日もその前の日も。
よっちゃんは寝てない。



理由はわかってる。



「もうすぐあの子の命日・・・。」



そう呟きながら『midnight』の仕事場に向かう。
行く途中に見た時計は7時を差していた。



「よっちゃん迎えに行って・・・・・・そのまま準備入るか。」



『light』の開始時間は10時。
準備は最低8時半からは始めたい。
よっちゃんを落ち着かせなきゃだし、そのくらいはかかるだろう。
そんなことを考えながら仕事場に入る。



「よっちゃん。」



端っこのソファーにいるよっちゃん。
普段みんなの前では吸わないタバコを吸っていた。



「タバコ、怒られるよ。」



誰に、とは言わない。
だけどその意図にすぐ気付いたよっちゃんは、寂しげに笑って口から煙を出した。



「・・・・・・・・・もう怒る人はいないよ。」



そう言って笑ったよっちゃんは、やっぱり弱くて。
今にも消えてしまいそうなくらい脆くて。



「・・・・・・・・・美貴が怒る。」



よっちゃんの隣に座ってタバコを奪い取る。
用意してあった灰皿にそれを置いて、泣きそうな顔になったよっちゃんを抱き締めた。



「怒ってないじゃん・・・。」



力なく笑うよっちゃん。

『泣きたい時に泣けばいい』
泣けない人にそう言うよっちゃんだけど、一番泣けないのはよっちゃんで。



「美貴が本当に怒ったら怖いよ?」



そんなよっちゃんに弱いのが美貴だった。



―――――――――――――



時計を確認する。
もう8時近い。
そろそろ準備しなきゃと思うけど、美貴の膝を枕にして安心したように眠るよっちゃんを見るとどうしても動けない。



「・・・・・・まだ吹っ切れないんだね。」



さらさらな金髪を撫でる。
よっちゃんは動かない。



「美貴はよっちゃんの傷を癒せない?」



そんなことを思わず口にしてしまう。
美貴じゃ無理なことはわかってる。
あの子はよっちゃんにとってとてもとても大事な子で。
よっちゃんの心の中にいつまでも留まっている子で。



「あ・・・。」



そんな思考に耽っていると入口の方から小さな声が聞こえてくる。
驚いてそっちを見てみると、そこには雅の姿。



「あ、えと、その・・・ごめんなさい。」



いつもと違う雰囲気に気づいたのか、困ったように謝ってくる。
そしてそのまま立ち去ろうとするので引き留めた。



「大丈夫。どうした?」



美貴の言葉に迷ったように足を止める雅。
一息止めてから一歩こっちに踏み出した。



「あー・・・・・・ちょっと、なんとなく眠れなくて。」



そう言って雅は少し微笑む。

・・・・・・少し嘘ついてるな、こいつ。

だって雅はお酒に弱い。
今日も飲んでたはずだし、飲んだら潰れるはず。
それに、気のせいかもしれないけどここに来てからずっと拳を握った左手が震えている。



「まぁ、そーゆーことなんであたし部屋戻りますね。」



雅はよっちゃんに似てる。
昔のよっちゃんにも、今のよっちゃんにも。

だから放っとけなくて。



「待て。」



「へっ?あの、あたし犬じゃないんですけど・・・。」



そんなことを言ってる雅は無視して、よっちゃんをゆっくりと膝から下ろす。
そしてズンズンと雅に近づいて、若干ビビっていた雅を優しく抱き締めた。



「え・・・?」



「・・・・・・よっちゃんも雅もなんなんだよ。」



もっとみんなに弱みを見せればいいのに。
泣きたい時に素直に泣けばいいのに。

そう言いたかったけど言えなかった。
言うのを躊躇った訳ではない。
美貴は言いたいことを言えるやつだから。

なのに言えなかったのは、よっちゃんと雅の代わりに美貴が泣いてたから。
自然と声は出なくなって、雅の『ごめんなさい』っていう声がやけに響いて。



雅を抱き締めながら、未だに震えてる左手を握ってあげることしか出来なかった。



end

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