4バカシリーズ
□罰ゲームするバカ
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「「「「せーのっ!!」」」」
一斉に突き出される四人の手と紙。
他の三人の紙を素早く確認してから一番最初に声をあげたのは、なんとあたしだった。
「・・・・・・っ、嘘だ!!」
「よっしゃあ!みやに勝った!!」
叫ぶちぃを睨み付ける。
だけど、どうせ点数は変わらなくて。
「つーか友!普通に点数良いじゃん!!普段バカなのに!!」
「きっか普段はバカだけど、テストの点はいつも良いよ?」
今度はこないだ転校してきたばかりの友に突っかかる。
変な時期に転校してきて少し浮いてたこいつを、あたしら(通称3バカ)が引き取ったのだ。
そんで4バカになったはずなのに・・・。
「てかなんで小春満点なんだよ!!」
「だって保健得意だもん。むしろ保健のこの範囲が好き。」
「・・・っ、ド変態!!」
ぎゃあぎゃあ騒いでも点数が変わるはずもない。
あたしが最下位だって事実も変わらない。
つまり、罰ゲームを受けるのはあたしで。
「さいっあく・・・。」
そう吐き捨てて、グシャグシャに丸めたテストをちぃの顔に投げつけた。
「いたっ!」
「おーっと夏焼くーん?自分の頭の悪さを人のせいにしちゃイケナイよねぇ?」
ニヤニヤ顔の小春が顔を近づけながらそう言ってくる。
それを睨み付けると、自然な流れで小春はそのままあたしにキスをした。
「・・・・・・・・・・・・こんなとこで何してんの。」
「みやのその反抗的な目ってそそられるんだよね。」
このセクハラ大魔王にキスされることなんて日常茶飯事。
あたしもこいつも色んな子とそういうことしてるし、特に驚くことはない。
・・・・・・・・・ただ、放課後なのにちらほら残ってたクラスのみんなから黄色い悲鳴があがって、この光景を初めて見た友が固まるほど驚いていた。
「・・・・・・・・・二人ってそういう関係だったの?」
「あはは!そういえばきっかは初めて見たんだっけ?みやと小春なんていつもこんなんだよ!」
あたしと小春の代わりに笑って説明するちぃ。
それに同意するように頷くと、友が少し安心したように見えた。
あぁ、小春のこと好きなのかな。
「まぁ、そんなことよりも。罰ゲームだよ、みや。」
オススメできないな、とか思ってると小春が思い出したかのようにそう言う。
・・・・・・・・・こいつが忘れる訳ないか。
「わかってるよ・・・。で、なに?」
頼むから簡単に済むやつにしてほしい。
そう思って、三人(主に小春)が考えてる間は黙り混む。
「まぁ、じゃあ簡単に行こうか。」
小春のそんな言葉に俯いてた顔を上げる。
その瞬間、嫌な予感しかしなかった。
だって小春とちぃがニヤニヤしてて、友が心配そうな顔してたから。
「・・・・・・・・・なに。」
「次にこの教室の前通った子に告白。」
・・・・・・・・・やっぱりそーゆーやつか。
罰ゲームの内容にがっくり項垂れると、小春がまた口を開いた。
「それがどうしても嫌だったら、小春に抱か「いや、大丈夫。」
そんなの絶対に嫌だ。
だったら告白頑張るっての。
「なんだよー。なんでそんな嫌がるんだよー。」
「小春に抱かれるとか、いくつ身体があってももたない。」
「小春とみやって相性良いと思うんだけど。」
「・・・・・・・・・別にあたしMじゃないし。」
こんなドSの相手してられない。
『どーかなぁ?』とか言って笑ってる小春を無視して真剣に廊下を見つめる。
と、そこであることを思い出した。
「あ。ねぇ、あたし今彼女いるんだけど。」
「知らん。どうせ別れるでしょ?」
・・・・・・・・・否めない。
ついこないだ浮気現場を見られてから連絡は途絶えてるし。
別に本気じゃなかったから良いんだけど。
「足音!」
あたしが諦めのため息をついた直後、ちぃがそう言う。
耳を澄ませると本当に足音が聴こえた。
「誰だろ。」
「きっかもなんかドキドキする。」
「5組の太田さんだったら面白いのに。」
「あの柔道部の人?」
「うん、みやのファンクラブ入ってるし。」
「・・・・・・それ完全にみや襲われるよね。」
三人の勝手な会話を流しながら、一人集中して足音を聴く。
だんだん近づいてきた足音は落ち着いた規則正しいもので、おとなしめの子だと予想。
「お、見える。」
小春の声に閉じていた目を開けて、ドアの方を見た。
その瞬間、今日一番の絶望を感じた。
「あ、鈴木愛理じゃん。良かったね、可愛い子で。」
良くない。
だったら太田さんの方が良かったよ。
だってあの子は・・・・・・。
―――――――――――――
2週間くらい前のこと。
その時の彼女に裏庭へ呼び出されてフラれた直後だった。
次の彼女候補に電話し付き合おっかと告げて、喜ぶ彼女に『好きだよ』と心ない言葉を贈って電話を切る。
そこの現場を、たまたま彼女・・・・・・鈴木愛理に見られていた。
『・・・・・・・・・最低。』
『うわっ、びっくりした・・・。』
『あなたって本当にそういう人だったんですね。』
軽蔑するような目であたしを見る鈴木愛理。
そんな彼女に、なぜかあたしは慌てて弁解した。
『いやっ、これは!自分から言ってきたんだよ!今の彼女と別れたら付き合ってって・・・・・・。』
『どんな理由でも最低ですよ。』
きっぱりと言われる。
鈴木愛理の存在は知っていた。
一個下の彼女は、入学式をトップの成績で合格し教師からの信頼も厚い優等生。
あたしとは正反対。
そんな彼女に言われた『最低』は、同じタイプの小春に言われる『最低』の何千倍も心に響いた。
『・・・・・・・・・私はあなたが嫌いです。』
真正面からそんなこと言われたのは初めてだった。
そして、その後すぐにどこかに行ってしまった彼女。
あたしはしばらくその場を動けなかった。
―――――――――――――
こんな最悪な出会いをした彼女に告白しろって・・・・・・。
でもこの話はなんとなくこいつらにはしたくない。
「みや、早く!」
「行っちゃうよ?そしたら第2の罰ゲームだよ?」
「・・・・・・・・・わかってるよ。」
軽く舌打ちしてから鈴木愛理のもとに向かう。
その前に、本気で心配そうな表情の友に微笑んでから。
「あのっ・・・!」
心臓が違う意味でドキドキしてる。
あたしの声に振り返った鈴木愛理は、明らかに怪訝そうな顔をした。
「・・・・・・なんですか。」
「えっと、そのー・・・・・・よ、良かったら・・・付き合って、ほしいなっ・・・て・・・。」
あたしがそう言い切った瞬間、鈴木愛理は一瞬驚いてから怒ったような表情で近づいてきた。
それになんの反応も出来ずに突っ立ってると、思い切りビンタをされた。
「本当に最低ですね・・・・・・なんでこの間嫌いって言われた相手に告白できるんですか?そんなの信じられないに決まってるじゃないですか。」
ここで引き下がればいい。
本当に最低なやつで終われば良かった。
なのに、なぜだかあたしは必死だった。
「嘘じゃない、本気だよ。あんなこと言ってくれる人に初めて会ったんだ。それで、忘れられなくて。」
本当の本当に、あたしは最低だと思う。
こんな嘘が簡単に口から出てしまうんだから。
「・・・・・・・・・本当、なんですか?」
「うん、本当。」
「ごめんなさい・・・。」
良かった、ふってくれた。
そう思ったのも束の間。
自分がビンタしたあたしの頬に、持っていたハンカチを軽く押し付けた。
「私の勘違いで殴ってしまって・・・。血、出てます。」
「あぁ、全然大丈夫。・・・・・・それで、返事は?」
早くふってほしい。
自分でも、あんなに食い下がってしまった意味がわからないし。
「保留、ってことでもいいですか?・・・・・・・・・まだ噂でしかあなたのこと知りませんし。」
そう言って困ったような表情の彼女に、あたしは嘘の笑顔を送った。
こんな罰ゲームにした、小春を恨むのを忘れずに。
end