4バカシリーズ

□バカ、見直される
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『愛理ー、ちょっとお母さんのアイス買ってきてー』



課された宿題をやっていたら、お母さんにいきなりお使いを頼まれた。
時刻は既に10時を過ぎていてさすがに少し渋ったけど、自分の分も買ってきていいからという条件につい頷いてしまって。

それでコンビニに来たら、一人で花火を購入しようとしてるこの人と出会ったのだ。



「・・・・・・こんばんわ」



「あ、こっ、こんばんわ」



なんでだろう。
家が近いとか聞いたことなかったし、いつも使ってるこのコンビニで会ったこともなかったのに。
それなのに放課後の事があったすぐその日にまた会うとか、神様はどれだけ意地悪なんだ。



「先、どうぞ?」



そう言って微笑んだ夏焼先輩はどこか弱々しい印象を受けた。
さすがにさっきの事は反省してるんだろうか。
いや、さっきの事というより、今回の事と言った方がいいのかもしれないけど。



「・・・ありがとうございます」



とりあえずお言葉に甘えて先に会計を済ます。
そのまま帰ってしまっても良かったと思うけど、迷った末に私はコンビニの外で夏焼先輩を待つことにした。
理由はわからない。
夏焼先輩に対しての私の行動は、なにかと理由がわからないことが多くて困る。



「あ・・・」



数十秒後、夏焼先輩が出てきた。
私を見て若干狼狽えたけどそれを誤魔化すようにすぐに笑った。
それすらも弱々しかったけど。



「家近いの?」



「ここから8分くらいです」



「へー、あたし、5分」



得意気にそう言った夏焼先輩に少し笑ってしまう。
家の近さを競って何になるわけでもないのに。



「一緒に花火する?」



と、そこでいきなりの提案。
なに言ってるんだこの人と思いながら夏焼先輩に視線をやると、自分のおかしさに気づいてないようでブンブンとビニール袋を振り回していた。



「誰か違う人とやるんじゃないんですか?」



「小春が11時くらいなら来れるって言ってたけど待つの嫌だし、愛理ちゃんやってくれるならやりたい」



この誘いを受ける筋合いはない。
この人は私のことが好きじゃなく、私はこの人のことが好きではないんだから。

だけど、やると頷いてしまったのは、私が断ったらこの人が一人で花火をするつもりだということがわかってしまったから。



そして私が夏焼先輩のことを『嫌い』ではなく『好きではない』と表現したのは無意識だった。



―――――――――――――



「はー!楽しかったー!」



私たちが花火をしていたのは近くの公園で約30分くらいだった。
夏焼先輩が買ったのは小さめの花火セットだったけど、火が出にくいライターのせいで結構時間がかかってしまって。
それでも常に笑って話しかけてくれた夏焼先輩のおかげでつまらないと思う時間はまったくなかった。



「私も、楽しかったです」



「そっか、よかった」



そう言って笑った夏焼先輩にさっきの弱々しさはなかった。
それに安心する気持ちと、なんで安心してるんだと呆れる気持ちが混じる。



「あ、時間大丈夫?」



そんな気持ちに乗っ取られてると、慌てたようにそう聞かれて、時間を確認すると既に10時50分を過ぎていた。



「そろそろ帰ります。ありがとうございました。あ、花火の代金いくらですか?払いますよ」



「いや、いいよ!あたしが無理矢理誘っちゃったみたいなもんだし。それより早く帰ろう、お母さん心配してるでしょ?」



そう言われて気づく。
お母さんに無断でこんな時間まで遊んでいたことを。
携帯を確認すると四件着信が入ってて、お母さん、妹からそれぞれ二件ずつ電話がかかってきていた。



「やばい・・・・・・すいません、じゃあ急ぎます」



そう言って一度頭を下げてから小走りで公園を出ていく。
すると、夏焼先輩が私よりも前に出てきて一緒に走り出した。



「あたしも行くよ!親御さんにはあたしから説明するから!」



やっぱり、この人は優しくてちゃんとした人だ。
その言葉に私は確信する。
一緒にいて楽しくて、色々な気遣いも出来て、これで恋愛に対しても真摯な人だったら本当に好きになっていたかもしれない。

そんな馬鹿げたことを考えていると、誰かに声をかけられた。



「あれー?みやと・・・・・・鈴木愛理?」



聞こえてきた声の方向に目を向けると、そこには自転車に乗ってる久住先輩。
私と夏焼先輩を見てポカーンと固まってる。



「小春!良いところに!チャリ貸して!」



「えっ?は?」



固まってる久住先輩から自転車を奪って跨がる夏焼先輩。
その光景をボーッと見ていると自転車に乗った夏焼先輩が私の隣に来る。



「愛理ちゃん後ろ乗って!あ!すぐ帰ってくるから小春待ってて!」



躊躇いながら言われた通り後ろに乗る。
ちゃんと掴まっててね、と言って夏焼先輩は私の腕を自分の腰に巻き付くようにさせる。
その瞬間勢いよく走り出す自転車。



離れ際に目が合った久住先輩は、面白そうだと言うようにニヤニヤとしていた。



end

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