動物化シリーズ
□鈴木家のお風呂
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「みんなー、お風呂入ろっか!」
遊び始めて数時間。
いつの間にか外は暗くなっていて、自分がどれだけ夢中になってこの子達と遊んでいたのかがわかる。
とりあえず、たくさん笑ってたくさん動いたせいでいっぱいかいてしまった汗を流すためにそんな提案。
「お風呂っ!」
「早く行こっ!」
「絶対楽しいっちゃん!」
思いの外乗り気な三匹に拍子抜けする。
だってさっきりーちゃんから『お風呂入れるのめっっっちゃ大変だったんだけど!!』というお怒りメールが届いたばっかりなのだから。
まぁでも、よくよく考えてみると菅谷家のみんなは猫で、鈴木家のこの子達は犬だ。
元からお風呂が好きだったか嫌いだったかで別れるのも当たり前ってことで。
だけど、嫌がられるのをちょっと期待してたのに残念だ。
「・・・・・・って、あ!ちょっと!」
そんなことを考えてるうちに三匹は既に走ってお風呂場に向かっていた。
それなりに広いので四人(一人と三匹?)で入れるには入れるけど、一気に入ったら絶対おおはしゃぎして大変そうだ。
そうは考えても、やっぱり手がかかりそうじゃないかと嬉しく思うのだった。
―――――――――――――
「愛理早く早くっ!」
あたしが洗面所に向かうと既に真っ裸の舞美ちゃんしかいなかった。
その舞美ちゃんもあたしにそう残して、とっととお風呂場に突入。
しかもドアを開いた向こうに見えたえりぽんは既に全身びしょ濡れで、湯船に入ってるちっさーにシャワーを浴びせていて。
「これは・・・本当に手がかかりそうだ・・・・・・」
思わず苦笑が溢れる。
大変そうだとは思うけど嫌じゃない。
あたしの家がこんなに騒がしいのなんて久しぶりで。
内心パパにお礼を言いながらあたしも服を脱いでドアを開けた。
「愛理おっそいよ!」
「ごめんごめん。みんなもう体洗った?」
入った瞬間文句を言ってきたちっさーに笑いながら質問。
みんな湯船に入って水かけっこしていたから、洗ってくれてるとは思うんだけど。
「え?愛理ちゃんが洗ってくれるんじゃなかと?」
そう言ったえりぽんを含め、みんな不思議そうな顔をしている。
あぁ、そうだ。
いつもあたしが洗ってるから当然今日もあたしが洗うと思ってるんだ。
それはそうだろう。
この子達は間違ってない。
だけど、これ、正直恥ずかしくない?
「愛理洗ってー」
「洗ってー」
「洗ってー」
三匹はそう言って湯船から出てきて地べたに座る。
その間も、ちっさーが舞美ちゃんにじゃれついて肩を甘噛みしてたり、舞美ちゃんがえりぽんのほっぺを舐めてたり、えりぽんがちっさーにのしかかってたり。
犬の姿でならいつものこと。
だけど今は人間の姿、しかも裸なのだ。
なんだかイケないものを見てるようで。
「み、みんな!整列!」
慌ててそう言うと、いつもの条件反射で三匹が一列に並ぶ。
「最初舞美ちゃん洗うからちっさーとえりぽんは湯船!」
「あいあいさー!」
「はぁい」
ザパーンと湯船に飛び込んだ二人を確認して、ゴシゴシタオルに石鹸をつける。
そして、目をキラキラさせて待機している舞美ちゃんの頭を軽く撫でてから洗い始めた。
背中、腕、胸、お腹、足、しっぽと羞恥心を捨てて、無心で洗う。
「よし!流すよ!」
「はーい!」
やっとのことで洗い終わって、シャワーで泡を流してあげる。
終わり、と言うと舞美ちゃんは満足そうに笑ってしっぽをブンブン振りながらありがとうと言った。
それが可愛くて、そして嬉しくて、ぎゅーっと抱き締めるとちっさーとえりぽんが湯船から出てきた。
「ズルいー!」
「衣梨奈もー!」
そう言って二人でのしかかって来るものだから。
もちろん犬の姿じゃない二匹を支えてやれるはずもなく。
「いったぁ・・・」
盛大に尻餅をついた。
すると三匹は心配そうに集まってきて、更には大丈夫?とか言いながらあたしのほっぺや腕を舐めてきて。
一気に体の熱が上がる。
「ちょ、みっ、みんな!人間の姿で舐めるの禁止!わかった人は湯船に飛び込んで!」
慌ててそう言うと、三匹はキャッキャと笑いながら湯船に飛び込む。
この子達にとっては舐めることなんて普通のことで、気にしてるのはあたしだけなんて少し恥ずかしい。
だけど、手遅れになる前に手を打っておかないと色々と危ない気がするのだ。
ため息をつきながら三匹を見る。
無邪気に笑いながら水かけっこを始めた三匹を恨めしく思ってしっぽを順番にギュっと掴むと、三匹ともそれぞれ悲鳴をあげながら飛び上がった。
予想外の反応に驚いたけど、それ以上に涙目になりながらなにするんだ、と言いたげにあたしを見る三匹に笑いが込み上げて来る。
これはこれは、すごく良い弱点を見つけたかもしれない。
end