ゴーストバスター矢島

□第三話
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重い。
気持ち、身体、全部。
起き上がれない。

沈む、沈む。

苦しい、溺れる。



助けて…舞美…



「みやっ…!」

「っ……ま、い…み…?」

見慣れない天井。
見たことはある。
ここは本部だ。

「よかった…!本当に…!」

舞美があたしを抱き締める。
ホッとすると同時にゾッとした。

「なんで…触れんの…」

「え?」

「あたし、今力ないのわかってる。いくら舞美だからって触れるわけない…」

怖い。
目の前に舞美がいるのに、震えが止まらない。
だってこれじゃ、あたしは―――

「みや、なにいってるの?」

「なにって…」

「なんであたしがみやに触れないの?」

なんだこれ。
どういうことだ。
意味がわからない。



「みやは普通の人間なのに」



―――――



あたしは人間の感覚を知らない。
死んだのは赤ん坊の時。
霊の姿は一番魅力的な時の姿になるらしい。
10代後半から20代前半。
死んでからはしばらく悪霊をしていた。
その時の記憶はないけれど。
それは個人の差があるらしい。
愛理のように悪霊の時をすべて覚えてる霊もいれば、あたしみたいにすべて忘れてる霊もいる。

でもってなにが言いたいかと言うと、あたしは人間でいるということを知らない。
あたしの記憶は守護霊の期間だけしかない。

「どうしたの?」

だから普通に触れてくる舞美が怖い。
触れられないようにしたいのにできない。

本部だと思っていた部屋は病院で。
部屋に入ってくる医者やナースが次々とあたしの体に触る。
怖い、怖い、怖い。
助けを求めようにも、助けを求められる唯一の相手が、いつもとは違うのだ。

あたしを人間だと言う。
あたしに触れる。
あたしの異変に気づかない。

「みや、異常ないって」

いつの間にか舞美以外の人間はいなくなっていて、舞美がいつもと変わらないような笑顔を向ける。
窓の外はオレンジ色で、あまりにも綺麗な光景に寒気を覚えた。

「舞美、ちゃんと説明して」

舞美が変だと思っても、あたしは舞美にしかすがることができなかった。
しょうがないことなのだ。
あたしのすべてが、舞美と一緒に出来ていると言っても過言じゃない。

怖くて、すべてを話した。
あたしは人間じゃない、と。
舞美はゴーストバスターで、あたしが守護霊で、一緒に悪霊を救ってきた、と。

舞美は笑った。
あたしは交通事故で意識を失ってた人間だと言った。
長い間昏睡状態だったと。
あたしがこの状態になるまでは一緒に悪霊を退治してたと。

「みや、夢でも見てたんじゃない?」

怖かった。
あたしが知ってるものとなにもかもが違う。
でも、間違ってるのがあたしの方だったら?
あたしは長い夢を見ていて、本当は人間だったとしたら?

「みや、悪霊をすべて消そう」

舞美は言った。
きゅっと唇を引き締めてから言った。
真剣な顔だった。

「人間を苦しめる奴等を退治しよう」

それを聞いて、あたしは息を思いきり吸い込む。






「バカか!!」






目の前の舞美が、いや、こいつは舞美じゃない。
知らない奴。
誰だかわかんないけど、目の前の奴が、驚いた顔をした。

「お前も相当バカだけど!!」

あたしは力をこめる。
持てる限りすべての力をこめる。
両手でそれを支えて、思いきり目の前の奴に当てた。

「舞美はもっっっとバカなんだよ!!」

『うガぁアぁぁぁあぁあ!!!』



目の前が光る。
知っている光。
そうだ、あたしは今、悪霊と戦ってたんだ。

「みや!」

「…舞美!」

「うっそ!ももの術、自力で解いたの!?」

空は真っ暗。
場所は遊園地。
ももと戦う舞美。
大丈夫、あたしは間違ってない。
ここがあたしのいるべき場所だ。

「ごめん、お待たせ」

「ううん、無事で良かった」

ももと距離をおいて、二人で肩を並べる。
安心する。
これが舞美だ。
あの世界で動揺したあたしがバカみたいに、舞美は舞美だった。

「あれぇ…ちょっとやばげ?」

ももが焦ったような表情になる。
本気で来るなら来い。
消滅なんてさせてやんない。
絶対救ってやる。

「んー…面白かったんだけどなぁ。今日のところは撤退しますか」

「させないっ」

「…ねぇあなた、人間になりたいわけじゃないのね?」

ももは無表情だった。
なにを言いたいのか、伝えたいのかわからない表情。

「…あたしは」

「あなたは…」

お互いになにかを言いかけたところで、あたり全体が真っ白になる。
光だ。
さっきのとは違う。
どちらかと言えばあたしが扱うような光。

「今日は、ばいばい」

「なっ!」

「またいつか」

耳元で聞こえた声はすぐになくなった。

「…援軍が来たみたい。もう終わっちゃったけど」

舞美が言った。
少し思うところがあるような表情だった。

「…愛理は?」

「あ、えと、たぶん観覧車あたりに隠れてると思う」

「探してくる」

意図的に舞美の側を離れた。
ももに言いかけた言葉。
それを頭の中でしっかりと言う。

「…恥ずかしすぎる」

自分で言わんとしてたことはわかる。
舞美には聞かせたくない言葉だ。

「…あれ」

だけど、ももが言おうとしてたのはなんだったんだろうか。
あれはなにかを伝える顔だった。
しかも、悪いことじゃない。
もしかして、あたしは舞美のような戦い方が出来ていたんじゃないか。

「…なんにせよ、もう一度会わなきゃ」

今度は騙されない。
強い心で。
あたしは舞美に成長を見せる。



end

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