□期待を胸に
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「それじゃあね。ひまわりさん」

綺麗な人だ。ひまわり書房から踊っているような軽やかさで出てきたその人を見て、まずそう思った。
甘そうな──そう、チョコレートみたいな色の髪と真っ白いワンピースの裾を揺らして。喜んでいるような悲しんでいるような曖昧な表情をして。でも、足取りだけは軽く───そんな人だった。女の人がわたしの横を通ったとき、何かいい香りがした。──なんの香りだろう?



「ひ、ひまわりさんっ!」

「・・・まつり。君はもう少し普通に開けるってことができないのか?」

そう言ってわたしの好きな人、ひまわりさんはパタンと本を閉じて椅子から立ち上がった。わたしは今度はゆっくりと戸を閉める(開けるときはスパンッと音をたてて勢いよく開けてしまったから・・・)。・・・・でもわたしの努力も空しく戸はやってきた誰かによってあっさり開けられてしまった。

「・・・ああ!せっかく慎重に・・・・ってお兄さん!?」

「おや、まつりちゃん。どうしたんだい?こんなところで・・・・」

相変わらずの和服姿でひまわりさんのお兄さんこと黒井里薫先生は笑った。笑った顔はなんとなくひまわりさんに似ている気がする。

「まつりは戸を閉めようとしていたんですよ・・・それより、兄さんはどうしたんですか?」

「ああ、これだよこれ。まつりちゃんも君も好きだろう」

お兄さんはそっと紙袋をひまわりさんに渡した。たい焼きと紙に書いてある・・・!

「わあ・・・ありがとうございます!お兄さん。わたしここのたい焼き好きなんです!」

「ありがとうございます、兄さん・・・・で、まつりのほうはどうしたんだ?」

「え?」

首をかしげるわたしに「急いで来たんだから、何かあったんだろう?」とひまわりさん。そうだ・・・すっかり忘れてた。あの女の人のこと。

「あの、さっき綺麗な女の人が来てましたよね?なんかいい香りがする、白いワンピースの・・・」

もしかして。もしかしてだけどひまわりさんとあの人は・・・!そんな不安が密かによぎる。そんなわたしに対して、ひまわりさんはあっさりと「あの人は私の先輩だよ。たまに本を買いに来てくれるんだ」と答えた。

「先輩だったんですね・・・あっ!!」

「・・・っ!?急にどうした?まだ何かあるのか・・・・?」

「女の人からいい香りがするなーと思ってて・・・でも何の香りかわからなかったんですけど、やっとわかったんですよ!あの人、ラベンダーの香りがしたんです」

そうだ。あの香りはラベンダーだ。しばらくラベンダーの香りを嗅いでいなかったからすぐにはわからなかったけれど・・・。ひまわりさんは「そういえばラベンダーの香りがしたな」と呟いた。お兄さんも「今は咲く時期じゃないから・・・香水なんだろうね」と呟く。・・・今は咲く時期じゃないんだ。「じゃあ、ラベンダーの香りが好きなんですかね・・・?」と私が思っていたことを口にすると、ひまわりさんは顎に手を当て言った。

「ラベンダーの香りが好きっていうのもあるんだろうけど・・・おそらく別なことが主な理由だろうな」

「ひまわりさんは何か知ってるんですか?」と聞くと、ひまわりさんはふっと微笑む。・・・・す、素敵だ!


「ラベンダーはね、別名薫衣草というんだよ。“薫る”と衣と草で薫衣草。・・・薫は兄さんのペンネームと同じだ」

→おまけ
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