夢3

□君のことなら何でも知ってた
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「あーもう、ほんっっっっと疲れた!なんで亜美ちゃんがあんなことしなきゃなんねーんだよっ!」

「・・・・川嶋さん。保健室のベッドはみんなのものなのよ?」

「はぁ?亜美ちゃん超、超、超〜疲れてんだからさ。使っていいじゃんベッドくらい。ベッドは皆のものなんでしょ〜?」

ごろん、とベッドの上で寝返りを打つ彼女、川嶋亜美さんは保健室の女王様だ。特に用事がないようでも「疲れた」とか「だる〜い」とか言って、ベッドに入り込む。ほぼ毎日きてるんじゃないかな・・・。川嶋さんのことだから別にクラスで浮いているとかはないようだ(むしろ、彼女はクラスの人気者らしい)。だけど、人気者ゆえに精神的に疲れることも多いんだろう。なんとなくそれがわかるから、私は彼女を無理に教室に戻そうとかはしない。

「・・・あれ?先生メイク変えた?」

「ひょわぁっ!?」

いつの間に移動したのやら。彼女に背を向けてパソコンを打っていた為か、音や気配にまったく気づかなかった・・・。斜め後ろから私の顔を覗きこむようにしている川嶋さん。
さすが何事も手を抜かない美少女モデル。すごい観察眼。

「ちょっと濃くなってない?前までナチュラルメイクだったじゃん」

「・・・やっぱり川嶋さんにはすぐバレちゃうのね。はいはい、メイク変えましたよ」

「やっぱりね」と川嶋さんは笑った。彼女のこの、笑顔はとても魅力的だと思う。勿論どんな表情だって彼女は魅力的に見えるのだけど。

「てか、急にメイク変えるってもしかして男?」

ドキリ、と私の心臓が音を立てた。確かに私がメイクを変えたのは、・・・彼氏が出来たからで。別に恥ずかしいことでもなんでもないのに、何故か川嶋さんには知られたくないと思った。

「別に・・・イメチェンのつもりだったんだけど」

「ふ〜ん」

じとり、と視線が突き刺さる。多分無言だったのは10秒くらいだったと思う。たった10秒だけど、私には長い長い時間に感じた。

「ならさ、それ失敗してるよ。前のほうがいーもん。先生らしくさぁ」

「そ、そう・・・?」

彼には褒められたのに。何でだろ?彼女の言葉のほうが、心の奥に響く。

「そうそう。戻したほういいっって!」

「川嶋さんがそう言うなら・・・戻してみようかな」

私の言葉を聞いて彼女は満足そうに頷くと、「じゃあ、あたし行くから」とドアのほうに歩いていった。そんな彼女の背中をただぼぅ・・・と見つめる私。

と、その時。彼女が突然振り向いて言った。

「先生さ、嘘下手だよね。・・・素直に言えばいいじゃん男が出来たって」

・・・・彼女には何でもお見通しだった。彼女の最後の言葉が、突き刺さって、痛、い。
 

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