夢3
□榛名と提督の約束
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「榛名のこと、覚えていてね」
榛名はたまに、この言葉を言うときがあった。それは、彼女が何かしらの不安を抱えているときに決まって紡がれる言葉で。彼女がその言葉を口にするたび、私はそっと彼女を抱き寄せるのだ。
「提督。こんなところにいらっしゃったんですね」
私の斜め後ろに立って、榛名はくすくすと笑った。私は海から彼女へと視線を移す。
「どうしたの?何か用事?」
「はい。金剛お姉さまが提督を探してましたので・・・お手伝いです」
「そう。ありがとう、榛名。金剛は部屋にいるの?」
「はい、お部屋で待っていますよ。・・・提督」
立ち上がって金剛のところに行こうとした私の腕を、彼女はぎゅっと掴んで
「榛名と、少しお話しませんか」
「少しだけでいいんです。お姉さまも待っていますし」と、眉を八の字にした状態でおずおずと言った。こんな表情で言われたら断れるわけがない。私は「いいよ」と返事をして、再び腰を下ろした。彼女も私の隣に腰を下ろす。海をじっと見つめる横顔は、絵の中の存在のように輝いて見えた。
「提督。提督は・・・この戦いが終わったらどうするおつもりですか?」
てっきり世間話でもすると思っていたから、私はその言葉に面食らってしまった。この戦いが終わったら、なんて・・・考えたことがないわけではないけれど。戦いが進むにつれてそれは曖昧なものへとなっていった。・・・今は、それをはっきりととらえる事なんて、出来ない状態だ。
「・・・・・さあ。私には、わからないや」
この戦いが終わったら、私の周りは劇的に変化するだろう。彼女達とは当然お別れだろうし。このまま海軍の仕事をしていけるのかもわからない。
「・・・・・・・・・・・・・榛名も、わかりません」
きゅっと、榛名は自分の服の裾を握り締めた。
「・・・・・でも、提督。これだけははっきりしているんです」
「これだけ?」
「はい」と彼女は真剣な表情で頷いた。
「・・・この戦いが終わって、提督と榛名達は離れ離れになってしまうのかもしれません・・・・・その時、提督が榛名のことを・・・皆のことを覚えていてくださったら・・・・って、思うんです。これだけははっきりとしています」
「榛名・・・・・」
彼女はさっと目を伏せた。風によって前髪がさわさわと揺れている。私は、彼女の手の上にそっと自分の手を置くと、ゆっくりと、今この瞬間を忘れないように言葉を紡いだ。
「絶対・・・絶対に覚えてるよ。例えほかの事は皆忘れてしまっても、自分のことさえもわからなくなってしまっても・・・・・私は皆のことを忘れない・・・忘れたく、ないよ」
私は語彙が少ないから、今の気持ちを正確に伝えることなんて出来やしない。そんなのわかってる。それでも、少しでも彼女に今の私の気持ちが伝われば良いなと思う。頭のいい彼女のことだからきっとわかってくれるだろう。ほら、彼女はにっこり笑って「提督・・・榛名は嬉しいです」と言ってくれた。彼女との約束は絶対に守る。命が尽きるその瞬間まで私は彼女達と共にある。・・・そして願わくば、彼女達も・・・榛名も私のことを忘れないでいてくれたらいいな。