その男、人でなし
□第3箱『それができれば』
1ページ/4ページ
箱庭学園第九十八代生徒会長・黒神めだかが設置した目安箱は、生徒の間では『めだかボックス』などと呼ばれ、早くも好評を博していた。
「───子犬探し?」
時は放課後。
本日のノルマを達成した学生が我先にと帰っていく中、人がまばらになった一年一組の教室でそんな声が発せられた。
何を隠そう俺の声なんだけど。
「ああ。目安箱に依頼があってな」
そして声を出す元となったのは依頼を受けた善吉っちゃん。
今回の依頼は、去年の冬休みに学園内で迷子になった子犬を捜してくれ、というものらしい。
依頼人は三年二組に所属する秋月漆先輩。挨拶の言葉が「ごきげんよう」という、根っからのお嬢さまだ。ちなみに将来の夢はお嫁さん、らしい。
一回だけ話をしたことがあるけど、すごく感じの良い人だった。その時に貰ったお菓子(曰くスイーツ)も美味しかったし。
ともかく、その秋月先輩に依頼された善吉っちゃんは、やはり一人では情報・行動面ともに苦しかったのだろう。
たまたま通りかかった教室で、たまたま俺と袖が話しているのを見つけて、頼みに来たらしい。
「お前も知ってるだろ? めだかちゃんの特技」
「あー……」
俺の頭に、小学生の頃の記憶が蘇る。そりゃ、あんなの忘れられるわけないし。
「まあいいけどさ……。袖はどうする?」
「あたしも行くよー。おもしろそうだし♪」
おもしろそうか? 子犬探して捕まえて依頼人に届けるだけじゃないの?
「そーいやお前らこの子犬について心当たりとかないか?」
依頼内容を頭の中で反復していると、善吉っちゃんが俺たちに聞いてきた。
なるほど、善吉っちゃんも情報が大事だという事にようやく気が付いたんだね。成長したなあ……。
「おい、何か変なこと考えてないか」
善吉っちゃんに睨まれました。
心当たり、ね。
そう言えば、学園内に住みついている犬がいるらしい、って聞いた事がある。気がする。
「あるよー」
「え、マジで? あんの?」
袖が答えた。
え、俺? 俺は……。
「ないこともない」
「何なんだよお前ら……」
あ、善吉っちゃんが沈んだ。
なぜ心当たりがあるのに落ち込まれているのだろうか。
やっぱり善吉っちゃんの考えは俺には分からないよ。
まーそれはともかく。
「行きますか」
.