その男、人でなし

□第17箱『さすが過ぎるよ』
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下校時間。放課後とも言うけど、予定のない俺にとっては下校時間と言う方がしっくり来る。

水中運動会も終わったしまた日常編かなー、暇だなー、マンネリ気味だなー、とか思いながら歩いていると───



「あ」「お」



今度は雲仙先輩と遭遇した。



「あれ、雲仙先輩だ。一人なんて珍しい」

「ケケケ! まあこれから仕事だかんな、一人じゃねーとオレにその気がなくても巻き添え食らっちまうからよー」

「あー、なるほど」

「そーだ、テメーどうせ暇してんだろ?」

「え?」

「暇潰しに誘ってやんよ、ちょっと付き合え」



こうして、俺は雲仙先輩の仕事っぷりを拝見する羽目になったとさ。

……いや、まあ、確かに暇してたからいいんだけどね?










雲仙先輩についてきて到着した場所は、第弐音楽室。確かこの時間はオーケストラ部が使用していたはずだ。

そういやオーケストラ部って、防音設備に問題があって大音量の演奏が近所に漏れて迷惑だって苦情入ってるんだっけ? 文句言いに行っても部長さんが言葉巧みに躱しちゃうとか。

それで結局、風紀委員会まで回ってきちゃったって訳だ。ご愁傷さま。



「どーもー」

「お邪魔しまーす」



ノックも躊躇いもなしにドアを開けて中に入っていく雲仙先輩に続いて、俺も中へ入る。

楽器を持って座る生徒達とその前に立つ譜面台。誰もが突然の闖入者に驚き、ザワついている。確か一番前でサックス持ってんのが部長だったかな?



「え〜っと。今日は皆さんにちょっと殺し合いをしてもらいまーす」



バトロワかよ。



「……って、違う違う違う! ダッメだなーオレって本当にダメだ! 大人数を前にするとついつい殺し合いさせたくなっちまうぜ」



物騒なガ……子供だ。倫理的にダメだ。

一人ツッコミを装ったボケをかましてる雲仙先輩を視界に入れつつ、閉めたドアにもたれかかる。内開きだから後ろに倒れる心配はない。



「えー、では改めまして。オーケストラ部の皆さんこーんにーちわ! 僕ちん風紀委員会委員長の雲仙冥利でーす♡ 本日は皆さんを粛清に来ましたー! 皆さんの発する()()が公害レベルにうっせーっつー苦情(チクリ)が近隣の部活動から殺到しておりまして、ゆえに適切な処置をとらせてもらいたいと思いまーす!」



体操のお兄さんよろしく元気な挨拶とは裏腹に、その顔はあからさまに面倒くさそうだし体の方もダラけてまさに()()って感じだ。っていうか後半本音出てるし。

そんな子供を前に、オーケストラ部の皆さんはヒソヒソと内緒話を話し始めた。口の動きを見るに部員の一人が部長さんに雲仙先輩のことを話しているようだ。

上級生で雲仙先輩のこと知らないってどういうことだよ。にわかにも程があるだろ。

あ、いつも通り追い払おうとしてる。



「ねえ、雲仙くん」



あ、雲仙先輩の肩に手を置いた。



「オーケストラというのはそもそも大音量で演奏するものなんだよ。だからある程度周りに迷惑をかけてしまうのは仕方のないことなんだ。まあこれからはなるべく気をつけるから今日のところは見逃してもらえないかな?」



あっはっは、言い訳だ言い訳。その“これから”をアンタは何回使ったんだろうね。



「ああ、そうだ、お菓子があったな。副部長! 雲仙くんにアメちゃんをお土産に持たせてやって……」



ボギン、と、鈍くも高い音が室内に響いた。

……あーあ……肩に手を置いたりするから。



「ボギン……って、え"え"!?」

「…………人の身体気安く触ってんじゃねーよ、ボケ」



風紀委員会に賄賂や言い訳が通用する訳ないのに。

扉から背を浮かせて、いつでも避けられるようにする。ついでに保健室にも連絡しておこう。



「オレが出張ってきた時点で死刑確定なんだよテメーらは!

殺戮してやるから迅速に死亡しろ!!」



ホンット───ご愁傷さまだよ。


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