その男、人でなし

□第18箱『アドバイスですよ』
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めだかちゃんと雲仙先輩が第弐音楽室にて運命的な邂逅を果たし。
雲仙先輩が自身のポリシーを表明したところで。
生徒会潰しの刺客をめだかちゃん以外の三人に送ったという驚き桃の木山椒の木な事実が飛び出した。

さてさて、どうなることやら。
───なんて、分かりきった事だけれど。



「……やれやれ、愚かなことをしてくれたものだ」

「あ゛?」

「不知火、ここは任せたぞ」

「はい?」

「今度、私が手ずから満漢全席を振る舞ってやるから。頼むよ」



袖にそう告げて、めだかちゃんは出口に向かって駆け出した。
その背に雲仙先輩の攻撃が連続ヒットするけど、既にそこにめだかちゃんの姿は無い。ボフン、と、聖歌隊の服だけを残して消えた。

たとえ間に合いそうになくても、誰か(・・)()()()()()()している(・・・・)なら何があろうと駆け出す。それがめだかちゃんだ。



「チッ……甲賀卍谷の忍者かよあのバケモン女」



めだかちゃんを追おうと足を踏み出す雲仙先輩。
その前に(というよりドアの前に)袖が立ち塞がった。



「何のつもりだあ? エアオッパイ」

「いっやあ〜☆ 本当はこーゆーの不本意なんだけど、でも任されて頼まれちゃったし?」

「は? なんだそりゃ? テメーでオレが止められるとでも思うのかよ」

「思うね思うね思っちゃうね! だぁーって風紀委員長アンタ、校則違反してない(・・・・・・・・)()()()()()()出さ(・・)ないん(・・・)でしょ(・・・)? 」



袖の指摘に雲仙先輩の足が止まった。

袖は生徒会の連中と違って服装違反はしていない。ならば、と、雲仙先輩は廊下で食事をしていなかったか鬼瀬さんに聞くけど……



「はい、食べていませんでした(・・・・・・・・・・)



出された回答は否。震えた声は嘘をついている証拠だけれど、身内に激甘どころかゲロ甘な雲仙先輩は大人しく引き下がった。
袖もそれを分かっていて動いたんだろう。だってそういう顔をしている。
相変わらず状況判断に長ける奴だ。なんて考えていると、雲仙先輩が「そういや」と零して俺に顔を向けた。



「オイそこの傍観者」

「はい? 何です?」

「テメーには聞いてなかったよな。テメーは黒神のコトどー思ってんのよ?」



え。それ今聞きます?



「んーー……そう、です、ね。まーあえて雲仙先輩に合わせて言うなら───めだかちゃんは聖者なんかじゃありませんよ」

「ケケ、まーそうだろーな。駆けつけに行ったってコトはアレだろ? アイツが殴られたらやられっぱなしの無抵抗主義者じゃねーってコトだろ?」

「あー、いや、まあ。それは否定しませんけど」

「ああ? 何だよ煮え切らねー返事だな」

「いやいや、確かにめだかちゃんは無抵抗主義者じゃありませんし、勿論、聖者でも聖人でもない。でも───それでもめだかちゃんは()()()()()()()



俺がそう言えば、雲仙先輩は一度目を眇めてから視線を逸らした。右上へと向いた視線は脳内を探るかのようで。

多分俺の言っている意味が分からない───というより、“聖者ではない”ことと“全員助ける”こととの繋がりが分からないんだろう。

そしてそれでいい。わざとそういう風に言ったんだ、そうでなくちゃ困る。



「…………ハン、まーいいわ。いいよいいよ。ならばこの際、高みの見物ってヤツをさせていただこうぜ。バケモン女の文字通りの悪足掻きをなあ!!」



……こっからじゃ何も見えないけどね。


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