Main 〜Silver Soul〜
□春
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江戸に来て何度目の春になるのだろうか。桜の花びらが風に揺られて江戸中に舞って行く様は、いつみても美しい。武州にいた頃は、姉上のために、桜の枝を少し拝借して、後から怒られたものだった。
こんな穏やかな天気の日は、縁側でうたた寝をしていたいものだが、残念ながら本日は土方コノヤローと警邏である。土方さんとの警邏はサボって駄菓子屋にも万事屋に立ち寄ることも出来ない。土方さんとの一緒にいる事自体は嫌いではないが、息抜きは欲しい。
「おい、総悟。いるか?」
俺の返事を待たずに部屋の障子が開かれる。
「なんですかィ?返事を待たずに扉開けるなんてプライバシーの侵害でさァ。」
その言葉に案の定、顔をしかめイライラしながらタバコに火を付ける。
「ああ?テメーがそんな玉かよ。」
「で?何用ですかィ?」
「仕事だ!仕事!おめーがなかなか来ないから迎えに来た。....さっさと行くぞ。」
「へーい。」
そう言って部屋を出て行く土方さんの背中をおって自分も部屋を出る。
この人は、基本的に俺に甘いと思う。
多分、これが山崎とかだったらこっ酷く怒られていたに違いない。
俺の悪戯も我儘も何だかんだで許してしまう。少し過保護過ぎる所がウザく感じる事はあるが、何故か心地よく感じてしまう。
屯所の廊下を横に並んで歩く。
そういえば、土方さんとこうして、二人きりで話をすること自体、久しぶりだ?そう思うと土方さんとの警邏悪くない。
(久しぶりに土方さんと警邏嬉しいかも…)
そんな事を考えていたら、土方さんが、ため息を吐いてこっちを見た。
「ん?どうしやした?」
「そういう表情(かお)、ぜってー他ですんなよ。」
「はぁ?何言ってるんですかィ?ついに脳みそ腐りましたかィ?」
何時もの憎まれ口を叩くと土方さをは頭をガシガシと掻きながらイライラした口調で
「無防備過ぎんだよ。餓鬼。」
とだけ言った。
一体自分はどんな顔をしていたのだろうか?
山崎にも無防備過ぎますとか、もう少し周りの目を気にして下さいとか小言の様に言われる。一体自分の何処が無防備だというのだろうか?まったく理解出来ない。