蠅王短篇
□オレンジ
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「ねぇ、神崎くん。」
「…あぁ?」
太陽も空の頂上を過ぎ、教室に はオレンジ色の光に染まる。
神崎くんは3-Aの教室でいつもの席に座り、うとうとしていた。
無論、そんなところに私が声をかければ彼の機嫌は悪くなるわけで。
まだこちらを向いてくれない気まぐれ王子の背中に向かって言う。
「神崎くん、私ね、神崎くんの事…!」
「…何、泣きそうな顔してんだよ。」
全部言い終わる前に、抱き締められた。
「そんなこと、ないもん…!」
そう言いながらも涙は自然と流れる。
「どうしたんだよ…。いっつも犬みてぇに甘えてくる奴がいきなり泣くとか気持ち悪ぃだろーが。」
口は悪いけど、さりげなく私の背中をさすってくれている不器用な優しさと神崎くんの香りに包まれる。
「神崎くん、大好き…。」
「…おう。」
ぶっきらぼうで、照れ屋さんで、不器用な神崎くんが素直に受け止めてくれる。
「俺もだ、バーカ。」
こんな放課後も、悪くない。
(なんで泣いてんだよ。)
(だって、神崎くんが相手してくれないから…。)
(やっぱ犬か、お前。)