novel

□ひとつ屋根の下【3】
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《Side Yuko》


ガチャ・・・


二度チャイムを押して、完全に居留守を決め込まれたもんだから

、正直諦めて帰ろうとした時だった。


小嶋先輩が怪訝な顔をして少しドアを開けてくれた。


あー、なんか完全に怪しまれてるじゃん。とちょっと凹む。


「あ、こんばんは。遅くにすみませんっ!企画課の大島と申します。あのっ・・こじ」


『うん、どうかしたの?』


「あ、はい、あそこの社用車のスモールライトが点きっぱなしになってて、

でも私皆さんの番号知らないからどうしたら良いかと思って・・・。」

「・・・小嶋さんの車じゃない・・・ですよね?」


何か、初めてまともに話掛けたもんだから、

緊張して小嶋さんの顔を見れなくて

一気に要件を伝えた。


『えー・・・?あ、陽菜のだ。』

「・・・え?」

『あ、ごめんね。私が消し忘れてたみたい。

大島さん・・だっけ?わざわざありがとう。』

・・・良かったぁ・・・。無事持ち主が判明してほっとした。

「あ、いえいえ。良かったです。・・・無事お伝え出来て。

遅い時間だったから、皆さん寝ちゃってるかも、とか

色々考えちゃってたんで・・。」

『あー・・・、ごめんね。ちょっと警戒しちゃって。
居留守しようとしてたのバレてたよね?』

小嶋先輩がふっと、ちょっと申し訳なさそうに微笑んだ。

「あ、そんなつもりで言った訳では・・。」


緊張していて、今気付いたけど、小嶋先輩やっぱり超美人だなぁ・・・。

しかも、遠目にスーツ姿しか見たことなかったけど、

今は可愛い寝巻き姿がドアの隙間からチラリと見えていつもと違う姿にドキっとした。

『こんな時間まで、残業?大変だね・・。』

「あ、いえ。そんな。小嶋さん今から晩御飯ですか?」

『あはは、うん。やっぱり匂いしてた?
ちょっと一度寝たんだけどねー・・。』



お腹すいちゃって。


って照れ隠しみたいに笑う小嶋さんは、


・・・先輩にこんな事言うのもなんだけど、めっちゃ可愛いかった。

「お、お腹空きますよねー!・・ミネストローネかなにかですか?」

何でもない風に匂いから予想して聞くと

『ううん。今日はトマトラーメン作ろうと思って。』

「え?ラーメンですか?」

思わず聞き返してしまった。
だって、ラーメンとか全然イメージじゃなかったから。

『・・・だめ?』

小嶋さんが小首を傾げた。

「いえ!全然ダメじゃないです!あ、ラーメン伸びちゃってません!?大丈夫ですか?」

『大丈夫大丈夫。これから投入する所だったから。大島さんはご飯は?』

「あ、私は今日は途中で食べてきました。」

自分でも意味不明だけど、思わずどーでも良い嘘をついた。

本当は今日はまだ夜御飯食べてないし、
食べるつもりもなかったんだけど、
何となく小嶋先輩が気を遣うんじゃないかと思ったんだ。

『そっか。・・じゃあ、また今度良かったら御飯行こうよ。』

今日のお礼もしたいしって。小嶋先輩が言ってくれた。

結局気を遣わせちゃったなー・・。でも、

「あ、はい!是非!」

思いがけない提案に、内心テンションは急上昇だった。

『じゃあ、お疲れさま。おやすみなさい。』

「お疲れ様です。おやすみなさい!」

ちょっと上がりっぱなしのテンションがバレないように、小嶋先輩に挨拶をして

自分の部屋へ帰ろうとした。


・・・・あ。

はっとして、部屋を振り返ると、
まだ小嶋さんはドアの隙間から私の方をみていたようで

目が合った。


私の言いたい事が伝わったのか、

小声で

『後で、ちゃんと消しとくから。心配しないで。』

って言われた。

・・・ほんとに大丈夫かなー?

ってちょっと思ったけど、まぁいっか。

会釈をして、今度こそ自分の部屋へ足を向かわせた。

スモールライトが点いたままになっている車を横目に通り過ぎて、

軽快に屋外階段を上っていく。

ふと見上げると空には星が広がっていた。

きっと、明日も傘はいらないだろう。

そんな気がした。
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