古の君色-イニシエノキミイロ-

□第8話
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「あっ、勇人の番だよっ!!」


杏「あっ、ほんとだ!」


「なんか懐かしいなー…」



只今、生で野球観戦中。

この場所でしか味わえないような興奮が体に伝わるのがわかる。




高校3年生にとっては引退も関わってくる大事な試合。



そう。

夏の甲子園に向けての高校野球だ。








夏休みが始まってすぐ

待ちに待った夏休みが来たというのにぐだぐだの毎日を過ごしていたあたしに携帯が鳴った。



そこにはたった一言

『野球応援来て』と。


まぁ相手は言わなくても分かるであろうが、送り主は勇人。









そして今に至る。

杏菜と2人で応援。

あ、もちろん同じ学校の人はたくさんいるよ?笑


2年でスタメンなんてきっとプレッシャーとの闘いもあるんだろうなと感じながら試合を見届けた。








杏「あ、そっか。中学生の時見に行ったんだったよね」


「そうそう」


杏「でも体育祭のときの気持ち悪い勇人くんしか見てないからなー」


「ほんとはすごくかっこいいんだよ?」






2人が話していると勇人がバッターボックスに入る。


それから何度かストライクやボールになってどんどん進んでいく。




勇人がバッターボックスに入ってからすごく時間が経ったように感じるのはきっとあたしだけ。



そのまま追いつめられてしまった勇人は意を決したように投げられた球に対して思い切りバットを振った。


いいところにボールは跳んでいき結果はツーベースヒット。





二塁まで走り一息ついた所でなぜだか勇人は周りを気にし始めた。




杏「勇人くんキョロキョロしすぎ」


「ね、あたしも思った。なにか探してるのかな」


杏「ふふっ、きっと名無しさんを探してるんだよ」


「え? あたし?」


杏「うん、きっとね、名無しさんのこと見つけたらなにか反応すると思うよ」


「こんなに人いるのに見つかるわけないでしょ…」





まぁ、前の方だし見つけにくい場所ではないとは思うけど…

なんであたしを見つける必要があるんだろう。








結局この回は勇人が打っただけで点数には繋がらなかった。




「あー残念」


杏「二塁に勇人くんいたのにもったいないねー」


「でもまだ始まったばっかだから!」


杏「そうだね」



次に守備に入るあたしたちの学校。


ちょうど勇人は三塁側、まさにあたしたちの応援側へと来た。


ショートだから当たり前か。




杏「ほら、また探してる」



杏菜が言ったから勇人を見てみると応援席を端から端まで目を通しているのが見ていて分かった。




まだ次の回が始まっていないからいいものの観客席見過ぎだよ笑



そう思っていたらある一点で視線が止まった。




遠すぎて分からないけど…

こっちを見ているような

そうでないような…




杏「ほら、名無しさんのこと見つけた」


「え? え?」


杏「手、振りなさいよ」


「あ、そ、そか!!」



両手で思いっきり手を振ると笑って少し控えめに手を挙げて答えてくれた。




杏「これできっともうキョロキョロしないと思うよ」


「…」


杏「…名無しさん?」


「え、あ、そ、そうかな」


杏「…どうしたのよ」


「いや…なんでもないよ」








なんでだろ…









勇人が笑顔でこっちに答えてくれた時、

勇人がすごく遠い存在の人に見えて

なんとも言えない気持ちになった…
















…ちがう。ちがうよ。
なんとも言えない気持ち、じゃない。



はっきりしてる、この気持ち。








あたしは素直に


"寂しい"と感じた。









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