古の君色-イニシエノキミイロ-

□第8.5話
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『俺は名無しさんのこと…』


俺はその続きを言おうとした。



でも、彼女によって二文字の言葉を口にすることは出来なかった。





「勇人」

俺の名前を呼んだと思ったら俺の口を名無しさんの手で押さえた。



もう、
それ以上言うなというように。


「…」
勇「…」


無言の中2人を生温い風が包む。


「送ってくれてありがとう。また試合応援してるから!!」


いつもの笑顔でそう言ったきり名無しさんは逃げるようにしてこの場を離れていった。

去っていく名無しさんの背中を見る。






勇「あれが、あいつの答え…」


そうぼそっと呟いた。






なんて言われるかなんて、
フられるだろうなんて、
そんなのあいつが俺を見る目を見てたら嫌ってくらい分かってた。


…わかってたけど。

いざこうなってみるとフられた代償は…大きい。


しかも"好き"という言葉さえ彼女は拒んだ。







辛いくせにまだどこかチャンスがあるんじゃないかって…

どこかで思ってる自分がすごくばかばかしい。



勇「ははっ俺、めっちゃ女々し」

自嘲気味に言った言葉は誰にも届かず儚く消えて行った。














――――
――





あっという間に夏休みが終わるまで残り3日。


野球はというとあと一勝で甲子園に行けるところで負けてしまった。

でも先輩たちも満足していたようで良かった。


…なのだが。


勇「あかん」
悠「あ?」
勇「宿題なんも終わってない」


なんで悠斗がいるのかと言いますと。

部活の休みを夏休みの残り3日ももらえたが暇な日を作りたくない俺は悠斗を誘ったと。

そして悠斗は俺の部屋にいると。

そんでまた宿題が終わってないという現実に驚愕していると。


悠「すんげー残ってんじゃん」
勇「…悠斗くん」


俺が悠斗を見ながら手を合わせていると言いたいことが分かったのか悠斗が言う


悠「いやだ」

と、一言。


勇「まだ何も言ってないやん!!」
悠「宿題手伝えってんだろ」
勇「悠斗は優しいもんね!?俺を助けてくれるもんね!?」
悠「やんねーって」
勇「この量俺の頭だったら3日じゃ終わらへんよ!!!」
悠「溜めてたお前がわりーんだろ」


興味無さげに悠斗は持っていた雑誌に再び目を戻した。

そんな彼にしがみつく。


悠「なっおい!!離せよ(怒)」
勇「悠斗がやるって言ってくれたら離してやってもいーけどー?」
悠「それが物を人に頼む態度かよ」
勇「こうでもしないとやってくれないの分かってるから」
悠「あー分かったから離せ!!(怒)」
勇「わー!!さんきゅー!!!」


悠斗がその一言を言ったのですぐ離れた


悠「てかさ」
勇「ん?」
悠「どうせ勉強すんなら名無しさん呼ぼーぜ」
勇「え」
悠「だって名無しさんいりゃこんな課題ぱぱっと終わるじゃん」


いつもなら俺は大賛成だ。

…ただあの公園で会ってからこれまで一度もまだ会っていない。

気まずいわけじゃないけど…


悠「…はぁ」
勇「?」

呆れた顔をして悠斗が見る。

悠「お前な、わかりやすすぎ」
勇「え!?」
悠「名無しさんとなんかあったか」
勇「ななななんで」
悠「動揺し過ぎ。(笑)
だっていつもならうざいくらい賛成してくんのにしねーから」
勇「あー…」


俺は思わず肯定するように曖昧に言った



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