大空とヒットマン

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仄は、納得がいかなかった。
今の飼い主である望美は、ちゃんとやっていることの取り返しのつかなさをわかっていない。
もしも嘘がバレたらどうなるか、毛ほどにも考えていないのだろう。
自分の嘘がバレることなぞ、あり得ないのだと。
砂の言葉で形作られた、壊れやすく歪な関係。
その危うさに望美は気付いてない。

『……何してるんだろう、私』

ここ数日、彼女は望美の命でツナ達を観察していた。
ツナは確かにマフィアには向かない性格をしていたようだが、仄にはその性格の良いところを見いだした。
マフィアに向かない優しい性格は、時として強力な力を持つ。
黒曜戦の時、彼が新しい力を手に入れたように。
何度彼女が、望美が来ることを、その事による影響を、ツナに打ち明けようかと悩んだかわからない。
傲慢な弱者に虐げられてきた仄の目には、ツナ達が眩しく見えた。
こんな人が自分の飼い主ならと、幾度考えたことか。

『!』

ツナを気にして屋上に来た仄は、横たわっているツナを見つけた。

『綱吉く……っ』

何をされたのか、容易に想像がつく。
殴る蹴るの暴行、根性焼きや、バットで殴った傷。
人間の恐ろしさに、自分がヒットマンということを忘れて戦慄する。
それまでに、ツナの怪我は酷かった。
駆け寄った仄に、ツナは“笑う”。

『綱吉くん……?』
「来てくれると思ってた。君は優しいから」

いきなり変わったツナに、目を見開く仄。

「月城望美がしたことが、意外なんだろ?」
『っ、もう何もかも、わかってるんだね』
「うん」

起き上がるツナは、やはり痛いのか顔を一瞬だけ歪める。
仄はそばに跪き、背中を支える。

「お母さんの事も知ってる。君が最強ヒットマンと言われていることも、月城の事を俺達に伝えようとしたことも、ね」
『!』

伏せていた仄の顔が上がる。
その目は、微かに潤んでいた。

「いって……」
『、大丈夫?酷いよ、傷……ちょっと待ってね』

そういうなり仄はツナの一番酷い傷に手をかざす。
一瞬の精神集中ののち、淡い光が傷に触れた。
そこからじわじわと傷が治っていく。

「凄い……」
『時間がかかるけどね、まぁ綱吉くんもダメージはうまく逃がしてるみたいだし、治るのは早いと思うよ』
「ありがとう」
『ううん。私の方こそ……こんな事になるんだったら、言うんだったよ』

そこから、二人は口を開かなかった。
仄の方は後悔で一杯だったし、ツナは、何を考えているのか黙り込んだままだった。
やがて、傷があらかた塞がったのを見通してツナが口を開く。
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